本研究では,高温において合金中へ酸素が拡散浸透し,その内部に微細な酸化物を析出させる現象(内部酸化)に着目した.内部酸化は,Ag 中に微細な酸化スズを分散させた電気接点用材料の製造にも利用されている.内部酸化を利用して目的の合金組織を得る際には, In や Bi など第三の元素の添加が有効に反応を促進すると知られている.しかし,異種の元素を添加することで内部酸化が促進される機構や,酸化の最適条件は明らかにされていない.そこで本研究は,電気化学的手法を利用して合金の内部酸化を観察し,酸化の駆動力を電位で制御しながら反応速度およびその時間変化を定量的に評価することを目指した.前年度までに,固体電解質となるジルコニアるつぼ中で溶製した Ag-Sn 系合金に電極を接続し,600℃ において電位を利用して外部から合金への酸素の供給を制御し,酸化速度を電流値から評価することを試みた.その結果,サイクリックボルタンメトリーやクロノポテンショメトリーなどの電気化学測定から酸化の駆動力と速度の関係性を考察できる可能性が見出された. 本年度は,測定の信頼性を上げるために,ジルコニア内で合金を溶製する際の凝固条件やるつぼ形状を変更して追加試験を実施し,最適条件の探索を行った.本手法を用いて Ag-Sn 二元系合金とAg-Sn-Bi 三元系合金について600℃ での酸化を電気化学測定手法で比較した結果からは,Bi の添加による内部酸化の促進が電流密度の増大として確認された.また,これらの合金を空気中で加熱して酸化した場合と,固体電解質を利用して電気化学的に酸化した場合について,酸化速度の比較を行った.
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