研究課題/領域番号 |
16H04564
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
野村 淳子 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (60234936)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 吸着 / 赤外分光 / 固体表面 / 触媒機能 |
研究実績の概要 |
専用のセルの設計・作成は、真空排気下から気相分子存在下の様々な雰囲気で、なおかつ液体窒素温度から高温領域までの温度が可変で遠赤外領域の光を分光測定することができることを条件として行った。窓板の設置条件により、これまで用いていたセルよりも小型にし、セルと窓板の設置面の温度変化を抑える工夫をした。窓板材はポリエチレンとし、真空排気に対する強度と光散乱のバランスをとって厚みを調整した。 遠赤外領域の研究は、様々なゼオライトディスクを大気下で観測することで行った。ゼオライトは擬似吸着系、すなわちイオン交換体を選び、カチオンとゼオライト格子酸素との相互作用に起因する、いわゆる「カチオン振動」の観測を行い、カチオンの質量の増加に伴う吸着振動波数の変化を知見として得た。さらにカチオンの種類(Na)を絞ることで、カチオン振動のエネルギーはゼオライトのトポロジーに依存することがわかった。また、一つのゼオライト(モルデナイト)について、Naのイオン交換率を変えた際のカチオン振動の観測を行い、半定量的な取り扱いをすることができた。 中赤外領域の予備実験は、様々なプローブ分子の吸着挙動について詳しく行った。具体的には、塩基性プローブであるピリジン、アセトニトリル、ピバロニトリル、コリジン、ルチジン、ヘキサメチレンイミンなどの吸着測定条件の設定を行った。ここで、CO2が酸性プローブ分子となることがわかった。CO2は通常室温以上の温度で吸着させると、表面での化学反応を伴いカーボネートを生成し、単純な分子状吸着・脱離の過程を観測できていなかった。一方で、-50 °C以下での吸着を行うと、分子携帯を保ったまま塩基性サイトに吸着し、真空排気で脱離することから測定条件を選ぶことで塩基点のプローブとして用いることがわかった。なお、CO2の分子内振動が吸着サイトの塩基性強度を反映していることも確認できている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度はまず、液体窒素温度から高温領域までの温度が可変で、真空排気下から気相分子存在下の雰囲気で、遠赤外領域の光を分光測定することができる専用のセルの設計し、作成した。特に、窓板の材料を検討した結果、ポリエチレンを採用し、真空排気に対しても機械的に安定で、光散乱を最小限に抑えることのできる条件(厚み)を決定した。この系の設置により、既存のセルを用いた中赤外領域の測定と条件を揃えることで、吸着モードの現れる遠赤外領域から擬似的に連続したスペクトルを得ることができる。 上記セルを用いなくても測定することのできる系での研究を、粉体試料をディスク状に圧縮成形することで自立させ、大気下においての測定をすることで進めた。まず、ゼオライトを、最初の対象固体試料としイオン交換型(Na型)ゼオライトの「カチオン振動」と呼ばれている、カチオンとゼオライトの格子酸素との相互作用の観測を行った。この系は厳密には「吸着振動観測」とは異なるが、カチオンの種類(質量)を変えることで吸収エネルギーが変化するので、ゼオライトの格子酸素と吸着種との相互作用、すなわち、ゼオライト格子酸素の塩基性の評価についての知見を得ることができる。また、カチオンの種類をナトリウムに絞って、様々なゼオライトについて検討した結果、振動エネルギーはトポロジーによって異なることを見出した。これが格子酸素の塩基性強度の違いに起因するのか、単純に幾何構造的な因子に由来するのかは、今後検討していく。さらに一つのゼオライトについて、イオン交換率を変えた際のカチオン振動の観測を行い、半定量的な取り扱いをすることができた。 ルイス酸点への吸着プローブ分子は、ピリジンの他にもアセトニトリル、アンモニア、COなど多くの種類が知られているので、含窒素化合物からその種類を広げていくために、中赤外領域での観測を行い、測定条件の最適化を行った。
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今後の研究の推進方策 |
作成したセルは、ポリエチレン窓板の厚さ調整に時間がかかったため、それを用いた測定結果がまだ得られていたい。したがって、新たに作動させたセルと閉鎖循環系を用いた実験を強化する。一方で、中赤外領域での予備実験や補佐的な知見は当初の予定よりはるかに先に進んでおり、特にCO2が酸性プローブ分子となることがわかったことは、派生研究として非常に重要である。これまでに簡便かつ再現よく用いることのできる、固体表面上に存在する塩基点のプローブ分子は存在しなかった。特に、酸性触媒の活性点近傍の塩基点は反応で重要な役割を担っていることが示唆されていたが、それを証明する手段がなかったのが現状である。CO2は通常室温以上の温度で吸着させると、表面での化学反応を伴いカーボネートを生成し、単純な分子状吸着・脱離の過程を観測できていなかった。一方で、-50 °C以下での吸着を行うと、分子携帯を保ったまま塩基性サイトに吸着し、真空排気で脱離することから測定条件を選ぶことで塩基点のプローブとして用いることがわかった。なお、CO2の分子内振動が吸着サイトの塩基性強度を反映していることも確認できている。この結果は早いうちに論文としてまとめる予定である。
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