研究実績の概要 |
これまでに吸着振動の対カチオンとして、アルカリ金属(Li+, Na+, K+, Rb+)イオン交換型ZSM-5および分子カチオン(アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン)をZSM-5に吸着して観測してきたが、加えてRb+およびピリジン誘導体(2,4,6-trimethylおよび3,5-dimethylピリジニウムイオン)の吸着振動を観測した。金属カチオンの場合、振動波数は311 cm-1 (Li+) から87 cm-1 (Cs+) へと順にシフトし、シフト率は金属イオンの質量とイオン半径に依存していることが明確になった。分子カチオンの場合、電荷が分子内で偏っておりイオン半径が定義できないため質量依存性について検討した。アンモニウムイオンをNH4+からND4+に代えた場合、低波数シフトは観測されたが質量差が少ないので明確ではなかった。そこで上記ピリジン誘導体を用いたが、誘導体は質量が大きいのにもかかわらず高波数シフトした。このことから、置換基の電子的効果を考慮することが示唆され、確認のためメチル基とは逆に電子吸引性の3-fluoroピリジンの吸着を試みた結果、ピリジンよりも低波数に現れた。従って、ピリジン環の電子密度が高くなると吸着が強くなることを、吸着振動の直接観測で確認した。 吸着種の安定性はその吸着振動で比較することができるため、対カチオンをNa+に固定して種々のゼオライト(FAU, MOR, BEA, MFI, CHA)について吸着振動を比較した。吸着振動波数は189-138 cm-1に観測され、最安定なものと不安定なもので約50 cm-1すなわち0.6 kJ/molのエネルギー差があることがわかった。これはファンデルワールス結合に相当し、この違いがゼオライトの”confinement effect”と呼ばれる「閉じ込め空間場の効果」に対応するものと考えられた。
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