金属間化合物固有の結晶構造が触媒特性に及ぼす影響を明らかにするため、同一組成を持つ金属間化合物と固溶体合金の調製を行った。ある温度より低温側では金属間化合物、高温側では固溶体合金が安定相であるクルナコフ型と呼ばれる合金に着目した。Pd-Fe系、Pt-Co系について、触媒の熱処理条件をコントロールすることにより、Pd/Fe=1およびPt/Co=1の組成を持つ金属間化合物と固溶体合金を作り分けることに成功した。アセチレンの水素化に対して、いずれの金属間化合物上でも固溶体合金上と比べて逐次水素化によるエタン生成が大きく抑制された。この結果は2元系金属触媒において、規則的な表面原子配列が触媒特性に大きな影響を及ぼすことを示す。 金属間化合物PdZnが選択的水素化などの反応に対し特異な触媒作用を示すことをすでに見出している。PdZnの触媒活性および選択性をさらに高めるため、PdZnの表面第一層の原子のうち、イオン化しやすいZn原子のみをガルバニック置換法によりPbで置換した。これを用いてフェニルアセチレンの水素化を行ったところ、Pb置換前のPdZn/SiO2と比較して部分水素化によるスチレン生成に対する選択性が向上した。各種のキャラクタリゼーションの結果と併せて、ガルバニック置換によりバルクのPdZnの構造を保ったまま表面第一層のZnのみがPbで置換できること、および高い部分水素化選択性は大きな原子半径を持つPbの立体障害に起因することが明らかとなった。 さらに、3価のFeイオン水溶液を用いたガルバニック置換法を金属間化合物Pd5Ga3に適用した結果、4-ニトロスチレンとメタノール間の水素移動反応による4-エチルニトロベンゼン生成に、高い選択性を持つ触媒が得られた。この反応系においても、金属間化合物の特異な表面幾何構造が触媒特性を支配する主要な因子であると結論した。
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