研究課題/領域番号 |
16H04567
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 庸裕 京都大学, 工学研究科, 教授 (70201621)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 燃焼触媒 / 貴金属触媒 / 酸素貯蔵材料 |
研究実績の概要 |
自動車や塗料工場などから排出される炭化水素類やCOの触媒燃焼反応に対して,低温域での飛躍的な活性向上が望まれている.本反応に対して有効に作用する触媒としては,担持貴金属触媒以外に,Co3O4のような単独遷移金属酸化物触媒やぺロブスカイト型構造を有するLaMnO3のような金属複合酸化物触媒が知られている.しかし,既に燃焼機能が高い材料である遷移金属(複合)酸化物に貴金属種を担持した触媒の研究は,それほど多くないのが実情である.そこで,本研究では,貴金属と遷移金属酸化物から成る触媒に着目し,遷移金属酸化物がもつ触媒機能を極微量の貴金属元素添加により飛躍的に増幅させることを検討している. 28年度および29年度において,Mn修飾六方晶YbFeO3担持Pd触媒(Pd/Mn-YbFeO3)が高いCO酸化能を示すこと,およびCu/Al2O3触媒担持Pd触媒(Pd/Cu/Al2O3)がC3H6およびCO酸化に対して有効であることを見出した.また,当研究室が開発した高い酸素貯蔵能を有するSr3Fe2O7上に極微量のPdを担持させることで,固体内酸素イオンが劇的に低温で放出することも明らかにした. そこで,最終年度では,Mn-YbFeO3およびCu/Al2O3担持貴金属触媒に対する担持貴金属効果に関して,operando XAFSやin situ FT-IR等の「その場」分光解析法を駆使して,基質に対する反応機構の差異を明確にし,貴金属種の本質的な役割を明確にする.また,これらまでに得られた知見を活かし,高温かつ高流速条件下においても耐えうる新規触媒材料の開発を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでは,Mn修飾六方晶YbFeO3触媒(Mn-YbFeO3)およびAl2O3担持遷移金属触媒への貴金属添加効果および基質適用性の検討を主に行ってきた. Mn-YbFeO3触媒に対しては,上述したようにMn-YbFeO3の高い酸化能をPd種が増幅させることを明らかにした.さらに,高活性Mn種は,有機溶媒中での高温反応を利用したソルボサーマル法で顕著に生成し,その構造自体も明らかにすることができた.このようにPdの添加効果だけでなく,高活性Mn種の生成手法および構造まで見出すことに成功した.さらに,Mn-YbFeO3へのPd担持効果はCOおよびC3H8燃焼には有効であるが,不飽和炭化水素であるC3H6の燃焼には顕著な効果が見られないことも28年度明らかとなった.そこで,29年度において,基質範囲適用性を検討したところ,C3H6酸化にはRu担持が有効であることを明らかにした.このように,担体と貴金属種の組み合わせについては多くの知見が得られてきた.また,比較的耐熱性が高いAl2O3を用いた研究成果としては,0.01 wt%Pd/0.5 wt% Cu/Al2O3が高い燃焼活性をもつことを見出した.しかしながら,0.01 wt%(100 ppm)のPd担持で飛躍的に活性の向上を実現できたことは,予想外の成果であった. Mn-YbFeO3は酸素貯蔵能を有することから,新規酸素貯蔵材料の開発および触媒担体機能についても,研究当初から検討を進めてきた.その結果,当研究室が開発した高い酸素貯蔵能を有するSr3Fe2O7上にごく少量のPdを担持することで酸素放出温度が劇的に低温化することを明らかにした.燃焼反応に対する酸素貯蔵材料の担体機能の解明に関しては,少し遅れているものの,新規酸素貯蔵触媒や関連する酸素還元能に関する電気化学的特性などの研究も概ね順調に進展していると判断される.
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今後の研究の推進方策 |
Mn-YbFeO3およびCu/Al2O3担持貴金属触媒に対する担持貴金属効果に関して,operando XAFSやin situ FT-IR等の「その場」分光解析法を駆使して,基質に対する反応機構の差異を明確にし,貴金属種の本質的な役割を明確にする予定である. 具体的には,Mn-YbFeO3担持貴金属触媒およびCu/Al2O3触媒担持Pd触媒に対する担持貴金属効果に関して,基質をCOおよびC3H6に固定し,operando XAFSやin situ FT-IRを行う.その結果,活性発現時の各種金属価数変化および吸着種の動的挙動を明らかにする.得られた結果から,貴金属種の助触媒としての機能および担体の機能増幅要因を明らかにする. さらに,六方晶YbFeO3は酸素貯蔵能を有しており,その酸素貯蔵能がPd/Mn-YbFeO3の高い燃焼活性に関与している可能性が考えられる.そこで,酸素貯蔵能を有する複合酸化物(Sr3Fe2O7)上にPd/Me(Me=遷移金属)を担持させた触媒の開発についても行う.酸素貯蔵能を有する担体は,活性サイトである遷移金属酸化物の特性を,Pdとは別の観点からプロモートしていることが予想できる.そのため,CO酸化の反応挙動解析には,COと18O2の燃焼反応を行い,生成するCO2の同位体分布を定量する.これらの検討から,担体中の格子酸素の寄与の有無を明らかにするとともに,酸素貯蔵能と触媒活性の連関性を明確にする. 優れた触媒活性を示した触媒に関しては,実用化の観点から,高流速条件下(SV=30000-100000 h-1)での活性試験を行う.また,高温・水蒸気存在下で長時間エージング処理を施した触媒の活性試験も行い,実用条件にも耐えうる触媒材料の開発に繋げる.
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