本研究の最終年度に当たる平成30年度は,これまでに引き続き,特に肝細胞をターゲットとして,ECM微粒子を利用した3次元培養系の有用性の評価を目指した実験系の構築を目指した。コラーゲンからなる微粒子を用いた培養系については,非接着性コートを施したセルカルチャーインサートなど,数種類の培養基材をテストし,ラット由来初代肝細胞の組織形成と機能評価を行った。微粒子の混合割合によって細胞機能が有意に変化すること,安定な組織形成において微粒子の使用が有効であること,などの重要な知見が得られた。さらに,数10~数100マイクロメートルの長さに断片化した直径10~20マイクロメートルのコラーゲンファイバーを用いた,肝細胞のヘテロ細胞集塊の形成を行ったところ,ファイバーを導入した場合に細胞の生存率が飛躍的に向上し,また機能も上昇することが確認された。これらの結果は,微粒子あるいはファイバー状のECM材料を用いたボトムアップ組織工学の有用性を示していると考えられる。これらの結果については近日中に論文投稿を予定している。またコラーゲン以外にも,ゼラチン,エラスチンなどの材料を用いた微粒子・ファイバーを作製することも可能であったため,これらを用いた展開を今後行う予定である。さらに,薄膜状のコラーゲン材料の微細加工技術の確立を行い,かん流培養下での肝細胞の共培養を実証したほか,微細加工コラーゲンゲルを用いた肝細胞の毛細胆管形成の評価を行った。肝組織以外の生体組織モデルとして,血管組織モデルや筋肉組織モデルの構築を検討し,特に微細加工コラーゲン材料を用いた血管組織モデルについては,その詳細な作製プロセスの最適化と評価を行うことができた。
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