研究課題
抗体は、糖鎖及び多数のS-S結合を有する複雑な構造をしており、小胞体(ER)での成熟化(フォールディング、糖鎖の付加及びS-S結合の形成)が抗体生産の律速段階であると考えられる。特に、S-S結合の形成が重要であると考え、抗体のS-S結合形成に関わるプロテインジスルフィドイソメラーゼ(PDIase)の特定を試みた。N結合型糖鎖の修飾阻害剤ツニカマイシン及び、ER膜状のCa2+-ATPaseの非可逆的阻害剤タプシガルギンを用いてヒト化抗体産生細胞CHO HcD6及び非産生細胞CHO-K1にERストレスを誘導し、PDIaseのmRNA発現量をqRT-PCRで定量した。その結果、両株においてpdia3及びpdia4 mRNAの発現量が有意に増大していた。特に、ツニカマイシン添加条件のCHO HcD6ではpdia4 mRNAはp > 0.001と極めて有意に増大していた。合成siRNAを用いてpdia4ノックダウンを行い、抗体生産への影響を調べた。ノックダウンの効果をqRT-PCRにより解析したところ、pdia4発現量はコントロールと比較して約70%減少し、培養上清中の抗体分泌量が少ないことが確認された。PDIa4を一過性発現させ、SDS-PAGE解析によりPDIa4発現量の顕著な増大を確認した。免疫染色により発現させたPDIa4の局在確認をしたところ、外来PDIa4はERに局在していた。しかし、Control(空ベクター)と比較し、抗体成熟度の差及び抗体定量共に有意な結果が得られなかった。この結果は、PDIa4以外の分子シャペロンも抗体生産に関与も示唆している。また、PDIa4の大腸菌での発現と精製に成功した。
2: おおむね順調に進展している
間接的ではあるが、PDIa4が抗体形成において重要な役割を担うことを示す結果を得ることに成功した。CHO細胞における抗体生産の律速段階の1つである可能性が高く、今後2年間の研究の基盤となる成果である。
今後は、PDIa4以外の抗体構造形成に関わる分子シャペロンの特定、PDIa4による抗体のS-S結合形成機構解明を目指す。抗体の構造形成においてプロリンの異性化が律速段階であることが知られているので、ペプチジルプロリルイソメラーゼの一種であるCypBが関与すると予想して研究を進める。まず、PDIa4が抗体形成のどの段階で機能するかを明らかにするために、ノックダウンした細胞において細胞内における抗体の状態をNative Gel電気泳動により解析する。また、PDIa4と抗体の複合体をWestern Blottingで解析する。一般的なPDIaseは触媒ドメインを2つ持つのに対し、PDIa4は触媒ドメインを3つ持つ点が特徴である。しかしながら、現在までにPDIa4特有の機能は明らかになっていない。そこで、PDIa4を大腸菌で発現・精製し、その機能と構造を明らかにする。構造については既に部分的な構造が報告されていることから全長の結晶化及び抗体との複合体の結晶化を目指す。機能については、一般的なPDIaseの活性測定に加えてin vitroでの抗体構造形成の効果を調べる。まず、CHO細胞で生産した抗体を還元・変性し、そのフォールディングに対するPDIa4の効果を調べる。さらに、大腸菌で作成した抗体に対する効果を調べる。大腸菌で発現した抗体ではプロリンの異性化が行われていないので、CypBによる処理を先に行ってからPDIa4を加えてフォールディング実験を行う。フォールディングはNative-PAGEによる複合体の形成に加え、抗原への結合能で評価する。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (10件) (うち国際共著 3件、 査読あり 10件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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