研究課題/領域番号 |
16H04573
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研究機関 | 横浜国立大学 |
研究代表者 |
福田 淳二 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 准教授 (80431675)
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研究分担者 |
丸尾 昭二 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (00314047)
渡邉 昌俊 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (90273383)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 肝組織 / 血管 / 送液培養 / 平滑筋 |
研究実績の概要 |
再生医療の分野における最大の課題の一つは、立体的な組織、臓器を作製する技術の開発である。今のところ送液可能な血管構造を構築する技術がないため、作製できる移植用組織のサイズは酸素の拡散範囲という制限がかかり、かなり薄いものに限られている。本研究では、独自に開発した電気化学を利用した細胞脱離技術を用いて血管構造を構築する技術を確立する。電気化学細胞脱離を用いて大きめの血管様構造を構築し、そこから毛細血管ネットワークを伸長させた。ただし、並走する血管様構造の間に圧力差が生じないため、形成させた毛細血管に培養液の対流が生じることはなかった。そこで、直径の異なる血管様構造やテーパー型の血管様構造を構築し、毛細血管網へ培養液が送液されるよう工夫した。さらに、作製する大き目の血管には圧力が負荷されるが、毛細血管のみの血管構造ではこの圧力に耐えることができない。そこで、生体血管と同様に平滑筋構造を付与することを検討した。つまり、血管構造をモールディングする際にハイドロゲル内にあらかじめ平滑筋細胞を導入し、血管内皮細胞の周囲を平滑筋細胞にて覆わせるようにした。特に、ゲル内での細胞密度を高めるため、平滑筋細胞にはあらかじめスフェロイドを形成させ、高密度でハイドロゲル内に充填した。その結果、平滑筋細胞による牽引力によってハイドロゲルが収縮し、さらに細胞密度が上昇した。血管収縮作用のある薬剤を培養系に添加したところ、平滑筋の収縮が生じ、血管構造の直径が小さくなる様子も観察された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画書において平成28年度に確立すると記載した技術の確立は達成された。特に、本研究の最も重要な基礎技術である送液可能な血管網構造の構築技術は、これまでの予備実験をもと、光造形技術を用いたテーパー型ニードルを用いて構築し、その圧力勾配により毛細血管網へ液の流れが生じることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
生体の肝小葉では、毛細血管に並走するように毛細胆管が備わっている。毛細胆管には、肝細胞が血液中から吸収した脂溶性物質を主成分とする胆汁が分泌され、これが集められて胆のうに貯蔵される。この胆汁は小腸に分泌され、脂溶性物質の消化・吸収に寄与している。肝不全に陥ると、この脂溶性物質の腸肝循環が破綻し、血液中の脂溶性物質の濃度が上昇し、全身に深刻な悪影響を及ぼす。つまり、再生医療のための肝組織として、胆管構造を備えることは非常に重要である。そこで、血管様構造を作製するのと同様に、胆管上皮細胞をニードル上に播種し、胆管様構造を形成する。肝細胞の間に微小胆管が形成され、胆汁が蓄積されることはすでに分かっていることから、この胆管様構造へ毛細胆管から胆汁が送り込まれるような条件を見出す。 一方、肝機能は500種類以上あるため、構築した肝組織が治療に有効であることを示すには、肝不全動物を用いた評価が不可欠である。予備検討において、デバイス内に血液を送液できること、ヒトiPS細胞由来肝細胞がアルブミンを分泌し、マウス内の血中から検出されることを確認している。今後、適切な肝不全モデル動物の作製と移植法を確立し、治療効果の実証に取り組む。
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