研究課題/領域番号 |
16H04582
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅井 圭介 東北大学, 工学研究科, 教授 (40358669)
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研究分担者 |
沼田 大樹 東海大学, 工学部, 講師 (20551534)
大林 茂 東北大学, 流体科学研究所, 教授 (80183028)
三坂 孝志 東北大学, 学際科学フロンティア研究所, 助教 (20645139)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 航空宇宙流体力学 / オプチカルフロー / 感圧塗料 / 感温塗料 / せん断応力 |
研究実績の概要 |
本研究は,航空機の非定常空力設計に汎用的に用いることのできる実験ツールとして,オプチカルフローの原理を利用して,表面圧力やせん断応力の2次元分布を高分解能・高精度で計測できる統合的な可視化手法を開発することを目的としている. 圧力計測については,我々が開発した粒子混合型PSP(TU-PSP)の表面粗さを低減し非侵襲性を改善したスプレー塗装型非定常 PSPを用いた.低速流れでは信号雑音 (SN) 比が低くなることが問題である.そこで,kHz オーダーまでの種々の周波数の圧力変動を対象とした非定常 PSP 計測を行い,その精度を評価した.計測対象は角柱後方からのカルマン渦の放出による床面の圧力変動とし,カルマン渦の発生周波数をおよそ 150 から 1700 Hz に変化させた.圧力変動 RMS 値分布では圧力変動が大きな領域が可視化された.また FFT の適用よりPSP 計測のノイズフロアは 10 から 50 Pa2 /Hz 程度であることがわかった.今後は SVD等の手法を適用してSN 比を改善できるかどうかを調べる予定である. せん断応力計測については,蛍光油膜を用いた方法に着目し,計測した輝度値の変動に対応するオプチカルフロー方程式の定式化を行った. 2次元油膜の運動方程式と連続の式から導かれる物理的な支配方程式を画像空間に写像したものからオプチカルフロー方程式を導き,物理的な流体の流れと画像上のオプチカルフローを対応付けた.今年度は特にロバストネスを改善させる手法の開発に取り組み,時系列画像に線形最小二乗法を適用するという新手法を考案した.コンピュータによって作成した擬似計測画像に対して従来法との比較を行った結果,新手法が計測精度とロバストネスの両面において優れていることが示された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究は概ね順調に進展している. 非定常感圧塗料の低速実験については,RMS 解析により圧力変動が大きい領域を可視化できること,非定常圧力センサとPSP から得られた卓越周波数がよく一致することなど,本計測手法の高い能力を示す結果が得られた.しかし,PSP から得られる時間平均圧力の絶対値は,光源照射強度の不安定性などにより,非常に大きな計測誤差が生じる.また,PSD が10 から50Pa2/Hz 以下の領域はノイズフロアに相当し,これ以下の信号レベルの抽出は困難であることがわかった.この状況を改善するには,光源の安定性改善やより高感度,高輝度の塗料の開発が必要とされる.この他,特異値分解法(SVD)ほかの信号処理技術の適用に挑戦したいと考えている. せん断応力計測については,本研究により線形最小二乗法に基づくオプチカルフロー手法の有用性が検証された.ただ,一連の比較評価はコンピュータによって作成した擬似計測画像を用いたシミュレーションによるものであり,風洞実験による検証を急ぐ必要がある.また,本手法は数学的な数式の操作が複雑で,第三者がその価値を理解することは必ずしも容易ではない.学会誌への掲載を急ぐと同時に,ワークショップや講習会それに解説記事の執筆などを通して普及に努めたい.
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今後の研究の推進方策 |
今年度に開発した計測技術の本格的な実証風洞試験に着手する.実証試験はまず,定常現象への適用から始め,段階的に非定常現象に拡張して行く. 非定常圧力分布計測については,高輝度光源と高速度CMOSカメラからなる計測システムを構築し,高速応答感圧塗料技術の改善と高精度化に取り組む.これまで低速実験では信号成分がセンサノイズに埋もれてしまい,感圧塗料による非定常計測は難しいと考えられていた.そこで本研究では,「特異値分解法」(SVD)や「固有直交分解法」(POD)などの信号処理技術を使用し,高速度カメラの時系列画像から信号成分のみを高精度で抽出することを試みる.合わせて,発光強度の増強や温度感度の低減など,感圧塗料の化学組成の改良に取り組む. せん断応力分布計測については,オプチカルフロー計測に共通の光源とカメラからなる計測システムを構築する.絶対精度の確認を行うため,油膜干渉法の専門家がいるワイオミング大学やドイツ航空宇宙研究センター(DLR)などに担当学生を派遣することを検討する,油膜法は画像の平均化が不可欠であり定常現象にしか適用できないことが欠点とされていた.ここでは位相平均法を適用することで,油膜法の適用範囲を非定常現象に拡張することを試みる.まずは角柱後方の流れ場に適用する予定である.さらには,トポロジー理論の検証や3次元剥離流れの構造の解析を行うため,計測された限界流線の微細パターンに現れる結節点,鞍点,渦状点などの特異点を自動抽出し分類するアルゴリズムの開発に取り組む.
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