研究課題/領域番号 |
16H04584
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
荒木 幹也 群馬大学, 大学院理工学府, 准教授 (70344926)
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研究分担者 |
志賀 聖一 群馬大学, 大学院理工学府, 教授 (00154188)
GONZALEZ・P JUAN 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (30720362)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 超音速ジェットエンジン / ジェット騒音 / 光学マイクロフォン / 低密度ガスジェット / 実機騒音推算 |
研究実績の概要 |
次世代の超音速/極超音速ジェットエンジン実現に向けた研究が,世界各国で進められている.従来の亜音速機を大きく超える高速巡行を実現するため排気速度を増大する必要があり,2000Kオーダの非常に大きなノズル全温で運用される.大きな排気速度は大きなジェット騒音をもたらすことになり,離陸時のジェット騒音が懸念される.本研究グループでは,超音速ジェットエンジンのための様々な騒音低減デバイスを研究してきた.ただしこれらは,1%スケールのミニチュアノズルを用い,全温も常温のジェットでなされてきたものである. 超音速ジェットエンジンの騒音低減デバイス開発において,その効果は最終的に「実機エンジン」で検証されるべきものである.ただし,開発中のエンジンであれば実機が存在せず,プロトタイプエンジンの開発・製造,国外試験場の確保,そして数か月にわたる試験実施が必要となり,莫大なコストを要する.これをミニチュアノズルで実現できれば,飛躍的な効果をもたらすことになる.ただしそこには,「周波数の壁」と「温度の壁」がある.ミニチュアノズルで取得したデータは騒音周波数が大きく,高周波マイクロフォン(最高140kHz)で取得したデータであっても,実機スケール換算した際の最高周波数は1kHz相当となり,人間の可聴域をカバーできない.高周波側にピークが隠れていても検出できない.また常温ジェットと高温ジェットは,単に音圧レベルが異なるのみならず,渦構造の移流速度が異なるため放射角度までもが大きく変化する.常温ジェットの騒音データから高温ジェットの音響場を推定することはできない. 本研究では,「1MHz超高周波光学マイクロフォン」と「低密度ガスジェット」を用い,1%スケールノズルの常温ジェットで実機エンジン同等の音響計測を可能とする技術を確立する.そして,騒音低減デバイス開発に新しい指針を与えることを目標とする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
一昨年度は,光学マイクロフォンの基礎原理検証を実施した.従来の機械式マイクロフォンは,圧力波によるダイアフラム(膜)の振動を電気的に検出し信号を得る.物理的な振動面を有するため,高周波数側に限界がある.ダイアフラムを小さくすることで高周波限界を拡大することが可能であるが,現状最も小さなダイアフラムを用いた製品(1/8インチ=約3mm)であっても,140kHzが限界である.1%スケールノズルを用いた場合,実機換算周波数は取得データの1/100の周波数となるため,周波数上限は1kHzオーダにとどまる.人間の可聴範囲(20Hz~20kHz)をカバーするには,周波数上限が1ケタ足りない. 本研究では,「音」の計測に「光」を用いる.マイクロフォンから物理的な振動面を排する.「音」は圧力の変動であり,同時に場の密度も変動する.この密度変動を光の屈折で検出する.計測部を透過するレーザ光は,音波による密度変動でわずかに曲がる.これをシュリーレン光学系で輝度信号に変換して取得する.様々な仮定を置くことで,音波の次元へと変換する. 昨年度は,ジェット騒音低減デバイスとしてイジェクターノズルを実験に供し,形状パラメータを変化することで,最大で騒音低減量7dB,推力損失1%という成績を得ることができた.この結果を基に,低密度ガスによる実機音響場の再現を行い,さらに光学マイクロフォンを用いることで実機相当条件下での計測を行っていく.
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今後の研究の推進方策 |
本研究のゴールは,有効な騒音低減デバイスの提案にある.昨年度の成果として,イジェクターノズルを適用することで騒音低減量7dB,推力損失1%を達成しており,本年度はその最適化をさらに推し進める.そして,低密度ガス+光学マイクロフォンにより,実機相当環境下での騒音低減効果の見極めを行う. イジェクターは,メインジェットのエントレインメントにより周囲空気をノズル内に誘引し,混合・噴出する装置である.運動量交換によりジェット速度は低下し,ジェット質量流量は増大する.ジェットエンジンの総推力は,ジェット質量流量とジェット速度の積で与えられる.イジェクターでは,メインジェットと二次流の混合がロスレスで行われる限り,推力損失を伴わないこととなる.またジェット騒音の強さは速度の8乗に比例するため,有効な騒音低減効果を引き出すことができる. 本研究の供試ノズルは,極超音速巡行を想定した矩形の片膨張ノズルであり,従来の円形ノズルに対して提案されてきたイジェクターノズルはそのままでは適用できない.ブリードドア位置,混合セクション長さ,ミキサーなど様々な形状パラメータを変化させ,その最適化を行ってきた.そこには,過去に行った非接触断層音源探査手法の結果が大いに反映されている.昨年度は,このイジェクターの検討を,常温ジェットで行ってきた.形状パラメータの最適化も終盤に来ており,ミキサー形状が支配的なパラメータであることまで確認されている. 本年度は,実機相当環境下で,イジェクターノズルの性能評価を行い,実機用デバイスとしての可能性評価,ならびに常温ジェットとの違いを明らかにすることを目的とする.
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