研究課題/領域番号 |
16H04585
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
鈴木 宏二郎 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 教授 (10226508)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 航空宇宙工学 / 粉体流 / 数値流体力学 / 圧縮性流体力学 / 衝突現象 / バリスティックレンジ |
研究実績の概要 |
「圧縮するが膨張はしない(CNE)流体」モデルの構築と数値解析法の開発を行った。CNE流体が圧縮を受けると、圧力は密度の関数として与えられる非可逆的圧縮線に従って上昇する。圧縮力が除かれると、ごくわずかな密度減少で圧力がゼロに降下する。再度、圧縮を受けると同じ線上を逆に圧力が急上昇し、さらに非可逆的圧縮線に乗って圧力が上昇する。非可逆的圧縮線と、大きな密度変化を伴わず圧力が急降下または急上昇する可逆線の組み合わせでCNE流体モデルは非可逆過程を表現している。 ゴドノフ法による数値解法では、リーマン問題の解析解が必要である。線形な、すなわち音速一定の非可逆的圧縮線を仮定し、起こり得る全ての基本解を定式化した。衝撃波管問題を数値的に解き、解析解と一致する解が得られることを確認した。当初、可逆線から非可逆的圧縮線に一段階で圧縮するものを基本解の一つに加えていたが、実際にはわずかな擾乱で一旦、可逆線上を圧縮され、さらに非可逆的圧縮線に圧縮される二段階圧縮解に遷移することを見出した。そこで、前者の代わりに後者を基本解に入れてリーマン問題基本解を完成させた。 1次元衝突問題や2次元問題への拡張を進めて数値計算を行った結果、除荷後も密度が減少せず、膨張波が生じないことや、流体内部や流体と物体表面の間に流体のない空隙が生じるなど、通常の圧縮性流体にはない現象表現能力があることを確認した。 並行して、実験の準備を行った。ダスト雲における衝突現象を模擬するものとして、漏斗状の粒子貯めからダスト粒子を落下させ、そこにバリスティックレンジによって発射した飛翔体を衝突させるテスト実験を行った。確実にダスト雲と飛翔体を衝突させることや、安定してダスト雲を作ることなど課題はあるが、試験室を真空に引くことで雰囲気気体の影響を排除できるなどの利点があり、今後、装置の改良を続けることとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
圧縮するが膨張はしない(CNE)流体モデルの構築とその数値解法について、基本的な部分が完成した。1次元のテスト問題等で、衝突によって圧縮された高密度流体は、衝突による流動が停止した後も高い密度のまま残存するなど、期待した性質を示すことが確認できた。CNE流体モデルの高速高濃度ダスト流への適用に関する基礎ができた点において研究は順調に進んでいると言える。 実験では、ダスト雲における衝突現象を模擬するものとして、漏斗状の粒子貯めからダスト粒子を落下させ、そこにバリスティックレンジによって発射した飛翔体を衝突させるテスト実験を行った。飛翔体の飛行軌道が安定せず、ダスト雲と確実に衝突させることができないという問題点が判明したが、使用するバリスティックレンジの発射管中心線がずれているためと判明した。平成29年度に繰り越して研究を継続した結果、再調整による中心線ずれの解消、模型直径を発射管内径と一致させるサボなし発射方式の採用により、問題を解決することができた。ダスト雲発生についても、漏斗状の粒子貯めの出口にスリットを開け、その下に外部スイッチで開閉する蓋を設けることで、カーテン状の2次元ダスト雲を再現性よく作り出すことができるようになった。 以上をまとめると、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
「圧縮するが膨張はしない(CNE)流体」モデルとその数値解法の基礎ができたため、今後は実用性を高め、応用範囲を広げていく方向で研究を進める。 CNE流体モデルと数値解法については、非線形な密度-圧力関係に拡張と、多次元問題へのコード開発が主なポイントである。非線形な、つまり密度によって音速が変化する非可逆的圧縮関係の導入は、密度上昇とともに圧縮に対する抵抗力が増すといった、より現実的な状況を表現することができるものと期待される。固体粒子のみの状態における数値解析の開発に目処がついた段階で、雰囲気圧がある場合に適用できるようモデルの拡張を行う。そのためには、気相と固相(ダスト)の間での運動量とエネルギー交換を考慮したモデルが必要であり、圧縮性気体の数値流体力学(CFD)コードと組み合せた数値解析法を開発していく。 ダスト雲での高速衝突現象の実験として、バリスティックレンジによるダスト雲への飛翔体発射と、ダストを含む気流中に模型を投入するダスト風洞方式が考えられる。平成28年度に実施したテスト実験で、前者が実現可能であることがわかったため、今後はバリスティックレンジ方式を主とし、それに問題が発生した時の予備としてダスト風洞方式を位置付けるものとする。安定してダスト雲を作り、それに対して確実に飛翔体を貫入させるよう、実験装置の改良を進めていく。バリスティックレンジ方式では、風洞方式のようにダストを噴射した気流の影響を分離する必要もなく、問題設定も簡単となる。従って、高速ビデオで得られる現象の実験画像を再現できるようにモデルをチューニングすることで、CNE流体モデルの改良が進むものと期待される。
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