研究課題/領域番号 |
16H04623
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研究機関 | 核融合科学研究所 |
研究代表者 |
村上 泉 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 教授 (30290919)
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研究分担者 |
佐々木 明 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 関西光科学研究所 光量子科学研究部, 主幹研究員(定常) (10215709)
中村 信行 電気通信大学, レーザー新世代研究センター, 准教授 (50361837)
坂上 裕之 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 助教 (40250112)
仲野 友英 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 那珂核融合研究所 先進プラズマ研究部, 上席研究員(定常) (50354593)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | プラズマ・核融合 / プラズマ計測 / プラズマ原子分子過程 / 多価イオン / 分光計測 / 再結合過程 / タングステン |
研究実績の概要 |
本課題では、プラズマ中のタングステンイオンの挙動研究を分光的手段で行うために不可欠なタングステンイオン分光モデルに再結合過程を取り込み、発光構造における二電子性再結合過程の寄与を調べ、またモデルをプラズマ分光実験によって検証することを目的としている。 理論研究では、27価タングステンイオンの詳細衝突輻射モデルにおいて、原子構造において大きな方位量子数lの寄与も検討するため、lを4まで考慮したモデルと5まで考慮したモデルを比較した。発光構造としては、5までのモデルでは強い発光線の強度が2-4割増加した。二電子性再結合速度係数は、温度100eV以上で2割程度増加した。 電子配位レベルによる衝突輻射モデルを構築し、発光構造を詳細衝突輻射モデルの結果と比較した。波長4-5nmに現れる主量子数n=4-4遷移は、波長のずれが1nmほどあり2つのモデルの発光構造は大きく違うが、波長2-4nmに現れるn=4-5, 4-6遷移による発光構造は、波長も強度も電離進行プラズマでも再結合プラズマでもよく一致した。従って、主量子数の大きなレベルは電子配位レベルでよく近似できることがわかった。また、二つのモデルをつなぐレベルマッチングアルゴリズムの検討も進んだ。 二電子性再結合速度係数導出に必要な分岐比を適切な計算量で精度よく求める最適な方法の検討も進め、遷移確率の大きな支配的な遷移を判定、選別して用いることが重要であることがわかった。 分光実験としては、コンパクト電子ビームイオントラップ装置に高分散分光器を設置し、フィルターと2次光を併用して非常に波長分解能の高いスペクトルが得られることができた。今後、測定されたスペクトルを用いて分光モデルの検証と原子構造の最適化が図れることになる。大型ヘリカル装置のプラズマ実験においても様々なプラズマ条件でのタングステンイオンスペクトルを測定することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
27価タングステンイオンの原子データを用いて、微細構造レベルの詳細衝突輻射モデルと電子配位レベルによる衝突輻射モデルの比較を行い、主量子数の大きなレベルに対しては、電子配位レベルでも発光構造がよく近似できることを確認できた。また、レベルマッチングアルゴリズムの検討も進み、コーディングのめどを立てることができた。二電子性再結合速度係数を適度な計算量で精度よく計算するための方針を詳細に検討することもできた。だが、26価、28価へのモデルの拡張は進めることができなかった。 実験では、コンパクト電子ビームイオントラップ装置(CoBIT)を用いた分光実験により非常に高い波長分解能のスペクトルを極端紫外波長域で得られることができるようになり、細かな発光構造をモデルと比較することが可能になった。これにより実験結果を用いた原子構造の最適化、波動関数の最適化を行うことができる。大型ヘリカル装置(LHD)のプラズマ実験では様々なプラズマ条件でのスペクトルが得られ、特に平成29年度は低温度プラズマにおける低価数タングステンイオンのスペクトルも得られた。これらのデータベースは今後モデル拡大の際に検証に用いることができる。一方、二電子性再結合過程の計測実験は最適な測定波長域の特定が進んでいないためまだ実施できていない。今後の課題として残った。
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今後の研究の推進方策 |
レベルマッチングアルゴリズムを使った改良衝突輻射モデルのコードを作成し、そのテストを27価イオンの原子データを用いて行い、計算結果の妥当性を定量的に評価する。その際、微細構造レベルによる詳細衝突輻射モデルと電子配位レベルによる衝突輻射モデルとの計算結果とそれぞれ比較し、差異を詳細に検討する。26価イオン、28価イオンに対しても、同様の検討を行う。電子ビームイオントラップ装置(CoBIT)による高分散分光スペクトル計測で得られたスペクトルの比較を行い、特に発光線波長を最もよく再現する原子構造を得るための波動関数の最適化を行うため、様々なケーススタディを行う。 二電子性再結合速度係数の詳細な理論計算に対して、二重励起状態に対する光放射だ吊過程と自動電離により決まる分岐比を精度よくかつ効率よく求めるために最適化の指針を調べ、いろいろな価数のイオンに対しても応用する。この指針を改良衝突輻射モデルコードに行かせるよう検討を進める。 CoBITを用いた高分散分光観測により、様々な価数のイオンに対してスペクトルを計測する。また、LHDをもちいたプラズマ実験においても、引き続き様々なプラズマパラメータにおけるタングステンのスペクトルを計測し、発光構造のデータベース化を進めていく。データベース化した発光構造は、波動関数の最適化や衝突輻射モデルによる計算の妥当性の検証に用いる。CoBITを用いた二電子性再結合過程の計測については、二電子性再結合過程によるサテライト線の計測に最適な波長域の特定も含め、実験の実施に向けて進めていく。
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