研究課題/領域番号 |
16H04629
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
鳥養 祐二 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (80313592)
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研究分担者 |
田内 広 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 教授 (70216597)
趙 慶利 富山大学, 学術研究部医学系, 助教 (90313593)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | トリチウム処理水 / 細胞核線量率 / トリチウム水 / トリチウムチミジン / アポトーシス / モンテカルロ |
研究実績の概要 |
本科研費の研究代表者は、平成28年4月1日付で富山大学から茨城大学に転勤した。申請時に予定していた富山大学の研究設備を常時使用できなくなったために、申請時とは研究手法を大きく変更せざるを得ない状況となった。従って、現在の進捗状況は、申請時の計画より半年から1年以上の遅れが出ている。 平成29年度にトリチウム水とトリチウムチミジン環境下でのヒト白血球細胞の培養を行い、トリチウム濃度と細胞生存率の関係を明らかにした。また、平成30年度は核輸送計算コードPHITSを用いて、培養したトリチウム濃度と時間から細胞核与える線量を求める手法の開発を行い、細胞内核線量率を求めた。 平成31年度は、富山大学医学部の管理区域において、トリチウム水とトリチウムチミジン環境下でのヒト細胞の培養を行い、アポトーシスの観察を行った。850kBq/mlと1,700kBq/mlのトリチウムチミジンまたはトリチウム水を含む培地でヒト白血球細胞であるMolt-4およびU937を培養した。培養時間は27、48、72時間である。培養したヒト白血球細胞を、ギムザ染色法を用いて細胞像を観察した。放射線感受性の高いMolt-4では、トリチウムチミジンを含む培地で培養した場合、培養時間に依存してアポトーシスの割合が増加した。しかしながらトリチウム水を含む培地で培養した場合は、1,700kBq/mlのトリチウム濃度でもアポトーシスの割合の有効な増加は認められなかった。一方、U937では、この条件下ではアポトーシスの有意な増加は観測されなかった。これまでの結果と合わせると、トリチウム汚染水と比較して、非常に高濃度なトリチウム環境下でしか細胞死は起きないが、細胞核線量としては0.1Gy程度でも細胞死が起きていることが明らかとなった。令和2年度は本科研費の最終年度であるため、これまでの研究を取りまとめる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者は、平成28年4月1日付で富山大学から茨城大学に転勤したために、研究に大幅な遅れが出ている。しかしながら、研究計画を大幅に変更し現在の職場環境でも研究可能な体制を取ると共に、富山大学の研究分担者と連携を行うことにより遅れを取り戻しつつある。平成30年度に富山大学医学部の管理区域が補正予算で改修工事が行われたために、トリチウムを用いたヒト細胞の培養実験が行えなかった。その代わりにモンテカルロ法を用いたトリチウムのヒト細胞への照射線量計算を検討した。トリチウムの細胞核線量率を求め、トリチウム濃度に対する細胞生存率の関係から、細胞核線量に対する細胞生存率の関係を求めた。その結果、ヒト白血球細胞は、0.1Gy程度の非常に少ない細胞核線量でも細胞死が起きるという、これまでに知られていない知見を明らかにした。この結果は、30年前に核融合特別研究時代に行われていたトリチウムの生物影響に関する研究では明らかとなっていない知見であり、本科研費の目的である新しい技術を用いてトリチウムのヒト細胞への影響を評価し、トリチウム汚染水の早期処分に繋げるという目的に沿った結果である。トリチウムによる細胞死が0.1Gy程度の非常に少ない細胞核線量でも発生するが、細胞死を発生させるトリチウム濃度は、トリチウム汚染水と比較して非常に高濃度であり、現在発生しているトリチウム汚染水の濃度では、細胞死に影響がないと言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成31年度までの研究において、トリチウム環境下では細胞のアポトーシスによる死が観測されるが、アポトーシスを起こした細胞ではDNAの断片化が観測されないこと、細胞死が0.1Gy程度の非常に少ない細胞核線量でも発生することを明らかにしている。このことより、トリチウムによる細胞死が、α線、β線、γ・X線などの他の放射線による細胞死とは異なることが示唆されるが、トリチウムによる細胞死の詳細は明らかではない。そこで、今後は細胞死の原因究明を中心に研究を行う予定である。特に、トリチウム環境下で培養した細胞のDNAにどれくらい損傷が入っているか検討する予定である。また、これまでの研究を取り纏め、論文化する予定である。
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