本研究は、核種移行挙動を支配する重要な影響因子となっている微生物による核種ナノ粒子化と、それに伴う核種ナノ粒子―微生物間相互作用を分子レベルで解明することを目指した。今年度はS. cerevisiaeに加えて地圏微生物の細胞外放出物(ES)を用いた実験を行った。実験には低溶解性のCeO2ナノ粒子(CeNPs)を用いて、その分散挙動を動的散乱光、ゼータ電位測定によって調べた。その結果、地圏微生物由来ESはタンパク質や多糖類、リン酸、有機リン酸等を含有しており、吸着実験後のCeNPsにはアミド結合やリン酸基を持つ物質が優先的に吸着していた。1 kDa透析で分離した高分子物質(PS)と低分子物質(SS)は分子量に関わらず含有している官能基はESとほぼ同じで、CeNPsへ吸着した物質も同様であった。ES、PS、SS水溶液中におけるCeNPsのζ電位pH依存性はPSのみの場合と一致し、高分子物質の表面電荷が系全体のゼータ電位を決定していた。またCeNPs凝集体の粒子径はζ電位の絶対値が大きいほど小さく、ゼロに近いほど大きいという結果から、CeNPsの凝集挙動は凝集体のζ電位に制御されていることが分かった。以上のことから地圏微生物から放出されるES、PS、SSに含まれる物質の吸着はCeNPsの表面特性を変えて多様なpH条件下での凝集体の分散性を高めることが分かった。 さらに、原子間力顕微鏡を用いて微生物のESを吸着させた表面と親和力を測定した。その結果、ESの高分子による斥力が見られ、実験の結果と矛盾しなかった。以上の結果より、地下環境における核種移行に対する微生物の影響因子を評価することに成功し、地層処分モデルにおける技術の信頼性向上に貢献した。
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