研究課題/領域番号 |
16H04637
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
和田 隆宏 関西大学, システム理工学部, 教授 (30202419)
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研究分担者 |
坂東 昌子 大阪大学, 核物理研究センター, 協同研究員 (20025365)
真鍋 勇一郎 大阪大学, 工学研究科, 助教 (50533668)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 放射線 / 生体影響 / 数理モデル / 生物物理 |
研究実績の概要 |
28年度は、多様な生物種に対して解析を進める予定であったが、なかなかよいデータが見つからず、これまでに解析してきたマウスやショウジョウバエについて、いくつかの新たなデータを解析することになった。 ショウジョウバエについては、低線量率での実験データをより詳しく解析しており、精源細胞と精子への照射を区別したパラメータを求めようとしている。マウスについては、低線量率の放射線を長期間照射したときに、がんの発生率がどのように変わるか、また同じ条件下で生存曲線がどのように変化するかについて、いくつかのデータを入手し、これを解析した。これらについては、研究会で部分的に発表している段階で、来年度には論文としたい。 シカゴ・ノースウェスタン大学のGayle Woloshack氏がまとめたマウスやビーグル犬に対する放射線照射の実験データを入手できるようになり、現在解析を開始したところである。データベースにはさまざまな照射条件でのデータがあるので、モデルの改良や適用性を進めるのに大変役立つと思われる。 がんの発生については、アーミテージ・ドールモデルという多段階模型が知られている。ただし、そこにはWAMモデルで導入した「修復」の効果は含まれていないので、これを含めた多段階モデルを構築し、物理学会で発表した。このモデルを適用する具体的なデータとして、国立がん研究センターが集めている「がん登録」データなどを利用する予定である。 福島県で行われている県民健康調査のデータが公表されており、約30万人を対象にした貴重な疫学データである。市町村別の甲状腺がん発生数と放射線量との相関を定量的に評価して、先行調査と本格調査で異なる傾向があることを見出し、物理学会等で発表した。今後の更なる調査に注目し、解析を進める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多様な種に対する突然変異などの実験データについては、もう少し多くのものが見つかると期待したが、バックグラウンド(非照射群)に対するデータの有無や線量率の範囲などで十分活用できるデータはそれほど多くないと見込まれるに至った。一方で、28年度中の活動により、アメリカにおけるマウスに対しての大規模で貴重なデータを見出すことができた。また、国内でも環境科学技術研究所におけるマウスの低線量率長期被ばく時のがん発生と死亡の経時データを入手した。これらは、数理モデルの改良に大いに役立つと期待している。
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今後の研究の推進方策 |
ノースウェスタン大学や環境科学技術研究所との共同研究を進めることで、主としてマウスにおけるがん発生と放射線照射の関係について、重要な進展が得られると期待している。マウスについては、大阪大学でも細胞レベルや個体レベルでの重要なデータがあり、特に細胞レベルのデータは突然変異とがんを結びつけるのに役立つと期待している。 ヒトのがんに関しては、福島県民健康調査という貴重なデータがある。この調査は現在も進行しており、年毎に新たなデータが得られるので、モデルによる解析、予言、結果の比較という形で、がん発生のメカニズムに迫りたい。 国内では、大阪大学、環境科学技術研究所、広島大学、長崎大学などと共同研究を進めており、実験データの解析を進めるとともに、新たな実験を提案していく。海外では、アメリカを中心にコンタクトを進めており、シカゴのノースウェスタン大学、フロリダのモフィットがん研究センターなどとの共同研究が計画されているので、これらを着実に成果に結びつけていきたい。ヨーロッパには、多くの疫学データがあるが、外部からその中身を直接見ることはできないので、今後コンタクトを取ることで共同研究という形でデータを利用する方策を考えている。
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