研究実績の概要 |
NdFeAs(O,F)粒界接合の組織観察を透過型電子顕微鏡を用いて行なった。その結果,フッ素が粒界に優先的に拡散しNdFeAs(O,F)を破壊していることが分かった。従ってNdFeAs(O,F)本来の粒界特性を調べるためには,超伝導特性,結晶性を維持しつつ,フッ素による粒界へのダメージを軽減することが重要であると結論できた。次にフッ素拡散量の過剰な拡散を制御することを目的にNdOFオーバーレイヤーの成長温度を変化させ,超伝導転移温度(Tc)とc軸長の変化を調べた。その結果,c軸長,Tc共にNdOFの成長温度により系統的に変化することが分かった。すなわちフッ素拡散量はNdOFの成長温度で制御できると結論できた。またTc~40 Kが得られるNdOFの最低成長温度は700℃であった。この結果から,NdFeAsOの成長温度を800℃のまま,NdOFの成長温度を700℃に設定しNdFeAs(O,F) 粒界接合を作製した。その結果,粒界特性は向上し,臨界角度(Jcが指数関数的に減少を始める角度)は約8.5°と見積もられた。この値は他の鉄系超伝導体で報告されている値とほぼ同じであった。 次にNdFeAs(O,F)臨界電流特性の向上を目的に,プロトン照射実験,ミスカット基板上への成膜,臨界電流密度JcのNdFeAs(O,F)膜厚依存性を調べた。プロトン照射した結果,Tcの低下(約3 K)は単結晶に比べて小さいことが分かった。Jcは,H||cでは僅かに向上したが,H||abでは低下した。ミスカット基板上に成膜したNdFeAs(O,F)の臨界電流特性は,僅かに低下した。膜厚依存性の実験では,NdFeAs(O,F)の膜厚が21 nmの試料で自己磁場中のJcは4.2 Kで8.6 MA/cm^2を記録した。またピン力密度Fpの磁場依存性からFpは1 TN/m^3を超える値が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
概要に記した通り,フッ素の拡散料をNdOFオーバーレイヤーの成長温度で制御できることを見出した。この成果から,粒界へのダメージを軽減しつつ結晶性,Tcを維持したNdFeAs(O,F)薄膜をバイクリスタル基板上に成長させることに成功した。その結果,NdFeAs(O,F)固有の粒界特性を調べることができ,Jcが指数関数的に減少を始める角度は約8.5°と見積もられた。これら一連の成果は国内外の学会で発表し,プロシーディングスとして報告した。またNdFeAs(O,F)臨界電流特性の向上を目的に3つ検討を行い,世界最高特性の薄膜の作製に成功した。プロトン照射の実験に関して,Superconductor Science Technology誌に発表,ミスカット基板上にNdFeAs(O,F)薄膜を成長させた結果は,応用物理学会,物理学会,International Symposium on Superconductivityにて発表した。膜厚依存性の実験から得られた世界最高のピン力密度Fpに関する成果はInternational Symposium on Superconductivityにて発表した。現在,論文を執筆中である。
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