研究課題
第3世代超伝導線材の実現に向けて,鉄系超伝導体薄膜の臨界電流特性を向上させる取り組みを行った。具体的には,[001]方向が[100]方向に数度傾斜したオフ基板の上に薄膜を成膜した。透過型電子顕微鏡(TEM)による組織観察の結果,薄膜内部には,多くの積層欠陥が観測された。この薄膜の臨界電流特性は,通常の基板の上に成膜された薄膜に比べて大幅に上昇した。本手法は,簡便に超伝導薄膜内に欠陥を導入することができることから,様々な超伝導薄膜の臨界電流特性向上に応用できる。また,オフ基板上に成膜された薄膜の傾斜方向と,それと垂直な方向の抵抗率を測定することで,c軸方向とab面内方向の抵抗率を求めることができる。これを利用して,大きな単結晶成長が困難なNdFeAs(O,F)のc軸方向とab面内方向の抵抗率を求めることに成功した。c軸方向とab面内方向の抵抗率の比から常伝導状態の異方性を求めたところ,組成により異方性の温度依存性が異なることが分かった。超伝導転移温度Tcが最も高い試料の異方性は,温度の低下と共に増加し,Tc直上で約250となった。一方,超伝導状態の電子の有効質量の異方性は抵抗率の磁場・角度依存性を測定し,異方的ギンズブルグ-ランダウ理論の式を用いて解析することにより求められる。その結果,Tc近傍で有効質量の異方性が2~3程度となった。抵抗率の異方性は,電子の散乱時間などを一定と仮定すると,有効質量の異方性の2乗に相当するが,常伝導状態の異方性は有効質量の異方性よりもかなり大きいことが分かる。鉄系超伝導体は鉄の3d軌道に由来する5つのバンドがフェルミ面を横切るマルチバンド超伝導体であることが報告されている。このことから,常伝導状態と超伝導状態における異方性の差は,伝導に寄与するバンドがそれぞれの状態で異なっているためであることが考えられる。
平成30年度が最終年度であるため、記入しない。
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