研究課題/領域番号 |
16H04648
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研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
福山 敦彦 宮崎大学, 工学部, 教授 (10264368)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 量子ナノ構造 / 熱電素子 / 非発光再結合 / 熱損失 |
研究実績の概要 |
量子ナノ構造でのミニバンド形成やキャリア発生、再結合、輸送といった基礎物性評価を目的として、キャリアの非発光再結合過程に着目する。光ヘテロダイン微小振動測定技術を申請者らがこれまで開発してきた光熱変換分光法に導入しすることで非破壊非接触且つ高感度な非発光再結合検出技術を新たに実現する事が本研究の要旨である。 平成31年度はシリコンやガリウムヒ素等バルク半導体材料の測定を実施した。昨年度はピエゾステージを用いてステージ移動設定値とソフトウエアによる算出値の比較を行ったが、市販ピエゾステージの移動速度が10 Hzまでと制限されていた。実際の半導体材料を測定する場合には、励起レーザーダイオード(以下、励起LD)を表面に照射し、レーザー光吸収・非発光再結合による熱放出・熱伝搬といった物理現象を経て表面変位を生じさせる。本研究ではLDドライバを新規購入し、励起LDのチョッピング周波数を0~10 kHzの範囲で動作させる環境を構築した。これ以外にも、励起LDの強度、検出用He-Neレーザーの強度、ビート周波数といった可変パラメータがあるため、測定を重ねることで最適値を決定した。その結果、ビート周波数fb = 80 kHz、励起LD周波数fex = 500 Hzの条件において、励起LDの駆動電流と表面変位量に明確な相関関係が観測された。励起LD駆動電流100 mA(対物レンズ後の光強度27.5 mWに相当)という非常に微弱な励起状態であっても、シリコンで0.089、ガリウムヒ素で1.008 nmという非常に微小な表面変位量をも検出できることが判明した。fexを100から10000 Hzに変化させた測定も実施した。fexを変化させると発生した熱の熱拡散長が変化するため表面変位量も変化する。実験結果は予想通りの変化を示し、光ヘテロダイン表面変位検出手法の構築が成功したことを意味している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
光ヘテロダイン型表面検出は複雑な光軸調整が必要なため、まずは光軸レイアウトがシンプルなモノダイン型光学系を導入した。その結果、システムとして2~3 nmの検出精度があることを確認できた。次にIII-V族半導体GaAsウエハ表面に波長800 nmのレーザー光を励起光源として照射した際の表面変位検出を試みた。励起レーザーはGaAsのバンドギャップ以上のエネルギーであるため表面近傍で吸収され電子-正孔対を形成する。形成された電子-正孔対の非発光再結合によって放出された熱が試料表面を膨張させる。励起レーザー光をチョッパー等で断続化すれば、表面も同一周波数で振動する。この表面振動が本研究で検出すべき光熱変換信号である。 より高感度化を目指して二つの周波数を用いたヘテロダイン光学系に改良した。周波数シフターやプリアンプ等を導入して仮組みによる確認を経て、ヘテロダイン型PPT信号が得られる見込みが得られた。システムの測定感度の確認は、ナノメートルの移動精度をもつピエゾステージを用意して行ったところ、指定した変位量の数値を算出できることが確認された。次ぎに、シリコンやガリウムヒ素等バルク半導体材料の測定を実施したところ、励起LD駆動電流100 mAという非常に微弱な励起状態であっても、シリコンで0.089、ガリウムヒ素で1.008 nmという非常に微小な表面変位量をも検出できることが判明した。 今年度の作業によって、1 nm以下、つまりサブナノメートルオーダーの表面変量検出感度を有していることが示されたことから「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までの作業によって、ヘテロダイン型表面変位検出システムの根幹部分が完成したと判断している。今後は、得られた結果と非発光再結合信号との関係性を明確にすることと平行して、マッピング測定にむけた開発を行う。具体的には以下の作業を行う。 (1)表面変位量算出はソフトウエア化できたが、現時点ではビート信号をデータロガー経由で制御PCに読み込んで算出ソフトウエアを実行させるといった手順が存在する。将来的にマッピングも視野にいれているため、自動でデータロガーにアクセスし得られたビート信号から表面変位量を計算する必要がある。今後は関連するソフトを作製可能な業者に依頼し自動化を試みる。 (2)平行して理論計算も行い、計算値と上記実験値の比較から定量評価に関わる諸問題を明確にする。具体的には検出光チョッピング周波数や照射レーザー波長、照射レーザー強度とビート信号出力電位差の相関関係の明確化である。この結果、これまで取得できなかった、光励起キャリアの非発光再結合による発熱量(表面変位量)の定量評価が可能となる。 (3)マッピング測定のために、動作精度10 nmのナノオーダーステージを購入する。マッピングのためには同ステージをPCから制御する必要もあるため、一昨年度作成したソフトウエアの改良を行う。 (4)信号解析について問題等が発生した場合には、光熱変換法の理論的解析を精力的に実施しているトロント大学機械工学科のMandelis教授やパリデカルト大学のTessier教授と電子メールを中心とした継続的な議論を行い、問題点をクリアにする。
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