前年までの結果により、Si負極上に人工被膜を形成することにより電解液分解が抑制されることが明らかになり、電池寿命の向上が期待された。しかし、充放電に伴うSiの大きな体積変化に起因して、せっかく形成した被膜が破壊されてしまう。この体積変化は純Siを用いる限り本質的に避けることが出来ない。そこで、本年度はSi負極の組成制御による膨張抑制に取り組んだ。 Si電極成膜時の酸素量を系統的に変化させて、酸素含有量の異なるSiOx薄膜を作製した。酸素量(x)が0.2および0.5の場合では、初期容量は純Siと同等の高い値を示したのに対し、容量維持率には大きな向上は見られなかった。一方、酸素量が多いx = 1.1および1.8の場合には、初期容量が低下する代わりに容量維持率が大幅に向上した。 充放電サイクルによる電極形態の変化と寿命特性の関係を明らかにするため、充放電後のSiOx薄膜のSEM観察を行った。純Si薄膜は繰り返しの充放電によりひび割れが進行し、スポンジ状のポーラス構造が形成され、電極厚みが大幅に増加していた。一方、高酸素量のSiOx薄膜では、充放電サイクルに伴うひび割れの進行が抑制されるとともに電極膨張も抑制されていた。SiOxの初回充電時にケイ酸リチウムが形成され、これが体積変化のバッファーとして働き、寿命特性を向上させたと考えられる。 酸素量を制御したSiOx負極にフッ素化合物や炭素成分を含有する人工被膜を形成することにより優れた電池寿命を示すことが期待される。
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