研究課題
記憶は学習時の感覚入力に応答し活性化した記憶痕跡細胞にコードされることが明らかとなった。本課題では、我々が構築した個々の神経細胞の活動様式を反映するCa2+動態と記憶痕跡形成に必要な学習後の遺伝子発現を、同一個体内で共に観察できる新規技術を用いて、記憶痕跡細胞を同定しその活動パターンを観察する。これによって、記憶痕跡細胞に特有の学習前・学習時の活動パターンの抽出を行うことで、記憶痕跡細胞の出現・選択の原理を明らかにすることを目的としている。平成28年度は、海馬における新規空間学習時に記憶を獲得した記憶痕跡細胞群の活動パターンを抽出するとともに、同じイベントの経験時に再度同じ細胞群で特有の活動パターンが表現されるかを、理研BSI深井朋樹リーダーとC. C. Alan Fung研究員とともに数理解析を用いて検証を進めてきた。記憶痕跡細胞における新規空間学習時のCa2+イメージングデータを他の細胞のものと比較したところ、今まで報告されたことのない記憶痕跡細胞に特有の同期性を持った高頻度活動パターンの観察に成功した。この活動パターンは、同じ空間への再暴露で再度高い発現を示したが、異なる新規空間への暴露では低かった。さらに、記憶痕跡に特有の同期的活動パターンを指標として機能的な細胞集団の同定を試みたところ、新規空間学習中に同期活動をした35種類の細胞集団のうちの1つの集団を構成する細胞の多くは、同じ空間へ再暴露した際に同期活動した7種の細胞集団の1つを構成する細胞群と高い一致率を示した。さらに、この細胞集団では、記憶痕跡細胞の含有率が極めて高いことが分かった。これは、特に記憶痕跡細胞が、新規空間学習中と同じ空間への再暴露時に、同期して特有の活動パターンを表現していることを示唆している。
2: おおむね順調に進展している
海馬依存的な空間記憶形成を誘導する学習中のマウス海馬神経細胞のCa2+イメージングによって、記憶痕跡細胞とそれ以外の細胞でのCa2+動態を指標にして学習時の記憶痕跡細胞に特有の活動パターンの抽出の可能性を示すデータを得ることができつつあるため。
平成29年度は、昨年度抽出した、新規空間学習時に出現する記憶痕跡に特有の同期性のある高頻度活動パターンが、同じ空間への再暴露で再現性を示すのかを検討することで、学習したイベント情報に対する抽出した活動パターンの特異性を確認する。さらに、記憶痕跡細胞の同期活動パターンの学習前・後の休息時における発現を検討することで、記憶痕跡細胞が個々のイベント情報処理を行う様式やタイミングの同定を試みる。
富山大学大学院医学薬学研究部(医学)生化学講座ホームページhttp://www.med.u-toyama.ac.jp/bmb/index-j.html
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Science
巻: 355 ページ: 398-403
10.1126/science.aal2690
Nature Communications
巻: 7 ページ: 12319
10.1038/ncomms12319