研究課題
記憶は学習時の感覚入力に応答し活性化した記憶痕跡細胞にコードされることが明らかとなった。本課題では、我々が構築した個々の神経細胞の活動様式を反映するCa2+動態と記憶痕跡形成に必要な学習後の遺伝子発現を、同一個体内で共に観察できる新規技術を用いて、記憶痕跡細胞を同定しその活動パターンを観察する。これによって、記憶痕跡細胞に特有の学習時や学習前・後の活動パターンの抽出を行うことで、記憶痕跡細胞の出現・選択の原理を明らかにすることを目的としている。平成29年度は、これまでに新規空間・文脈学習とその後の睡眠時(NREM/REM)、そして次の日の同じ空間暴露による記憶想起と異なる空間への暴露というセッションでCa2+イメージングを行った6例のマウスのデータが集まった。そこで、これまでと同様に理研BSI深井朋樹リーダーとC. C. Alan Fung研究員とともにこれらのマウスから得られたデータの数理解析を進めた。この結果、学習時に記憶痕跡細胞群において同期性を持った繰り返し活動が、コントロール細胞群と比べ有意に高い頻度で出現していることが明らかとなった。また、学習時に出現した同期活動性で定義された複数の記憶痕跡細胞の中のサブ・アンサンブル群が、学習後や想起時にかけて再び同じ細胞の構成で同期活動によって情報を表現していることが明らかとなった。さらに、この記憶痕跡細胞サブ・アンサンブルの再活動性は、新規の空間に暴露されると有意に低下することから、対応する記憶に対し特異性があることが確認された。このような活動パターンはコントロール細胞群ではほとんど観察されていないことから、以上の結果は記憶痕跡細胞特有の情報表現による記憶獲得の様子を可視化したものであると考えられる。
2: おおむね順調に進展している
記憶痕跡細胞特有の情報表現による記憶獲得の様子を可視化したと考えられる結果が得られてきているため。
平成30年度は、記憶痕跡細胞で見いだされた同期性で規定されるサブ・アンサンブル活動特性は、コントロール細胞群と比べ有意に差のあるものであるかどうかを解析し検討する。また、元データをシャッフルしたデータを用いた場合得られているサブ・アンサンブル活動が有意に消失するのかを検討し、観察されている記憶痕跡細胞の活動パターンが生理的に意味のある情報として表現されていることを明らかにする。最終的にこれらの結果をまとめた論文を準備し投稿を目指す。
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http://www.med.u-toyama.ac.jp/bmb/index-j.html