多くの動物は、同種の他個体に遭遇した際に、その種に固有のパターンを持つ「鳴き声」などの特徴的な音を使ってコミュニケーションを行う。本研究は、このような「種に固有のコミュニケーション音を認識してその意味を理解する」、といった聴覚情報処理が、どのような特性を持つ神経細胞のどのような組み合わせで達成されるのか、その神経回路機構を理解することを目的とする。そのための研究モデルとして、種に固有のコミュニケーション音として「求愛歌」を持つショウジョウバエの求愛行動を用いた解析を進めた。 前年度まで、聴覚神経回路構造をシナプスレベルで解読する為、脳の連続電子顕微鏡画像を用いたコネクトーム解析を進めてきた。当該年度はこれを継続し、聴感覚ニューロン群と、求愛歌情報処理に関わるAMMC-B1ニューロンとのシナプス接続様式を定量的に同定した。これにより、1次ニューロンである聴感覚ニューロン群から2次ニューロンであるAMMC-B1ニューロンへの情報伝達は一方向性であり、直接のフィードバック回路はないことが判明した。一方で、聴感覚ニューロン群の軸索上には、出力シナプスと入力シナプスが混在しており、プレシナプス段階での伝達制御機構の存在が示唆された。また、AMMC-B1ニューロンへシナプス伝達する聴感覚ニューロン群の1割程度は、逃避行動を制御するGFニューロン、と呼ばれる2次ニューロンにもシナプス伝達することが判明した。これにより、逃避行動に関連する音情報処理の経路と求愛歌の情報処理経路の両方に、特定の聴感覚ニューロンが情報を伝えることが判った。
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