研究課題/領域番号 |
16H04656
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
水関 健司 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 教授 (80344448)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 海馬 / 記憶 / 海馬台 / スパイク伝達 / 光遺伝学 / 速度細胞 / 神経細胞間相互作用 / 嗅内皮質 |
研究実績の概要 |
本研究は、海馬体の神経細胞間の相互作用が行動や経験によってどのように変化するかを調べることを目標とした。平成29年度にはラット海馬CA1、CA3、歯状回、嗅内皮質から多数の神経細胞の発火と電場電位を同時に記録したデータを基に、神経細胞間のスパイク伝達効率が学習の過程、睡眠の前後、ならびに行動の相で変化していく様子を調べた。その結果、バースト発火が起こった時にスパイク伝達効率が上がる促進的な細胞ペアと、バースト発火が起こった時にスパイク伝達効率が下がる抑圧的な細胞ペアがあることがわかった。さらに、スパイク伝達効率が促進的か抑圧的かは、神経細胞の種類ならびに領域に依存的であることを明らかにした。加えて、動物が歩行している時の速度を表す速度細胞に着目して解析を行い、スパイク伝達と速度情報表現に相関があることを明らかにした。 さらに、大規模電気生理学と光遺伝学的手法を組み合わせることで海馬台の主細胞を投射先により分類し、海馬台主細胞による投射先特異的な情報伝達機構を解明することを目標とした。そこで、海馬台の主細胞にチャネルロドプシンを発現させ、投射先を光で局所的に刺激して、チャネルロドプシン陽性の海馬台主細胞の軸索で生じ逆行性に伝達するスパイクを細胞体で記録することで、投射先により主細胞を分類する方法を立ち上げた。具体的には、海馬台にチャネルロドプシンを発現するウイルスベクターを注入し、同じ領域に最大256点からなる多点電極を留置し、海馬台の複数の出力先領域にはそれぞれ光ファイバを挿入した。これにより、動物が空間記憶課題や睡眠中に、100個程度の海馬台の神経細胞の活動を一斉に計測することができた。さらに、各投射先領域への光照射により逆行性のスパイクを検出できることを指標として、活動を計測している神経細胞の投射先領域を同定する系を立ち上げた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、海馬体の神経細胞間の相互作用・機能的結合が行動や経験によってどのように変化するかを明らかにすることを目標とした。平成29年度にはラット海馬CA1、CA3、歯状回、嗅内皮質において、バースト発火が起こった時にスパイク伝達効率が上がる促進的な細胞ペアと、スパイク伝達効率が下がる抑圧的な細胞ペアがあることを明らかにした。さらに、海馬体のどの領域のどの細胞種であるかによって、スパイク伝達効率が促進的か抑圧的かが影響されることを明らかにした。さらに、動物が歩行している時の速度を表す速度細胞の情報表現とスパイク伝達に相関があることを明らかにした。 さらに本研究は、大規模電気生理学と光遺伝学的手法を組み合わせることで海馬台の主細胞を投射先により分類し、海馬台主細胞による投射先特異的な情報伝達機構を解明することを目標とした。そこで、海馬台の主細胞にチャネルロドプシンを発現させ、投射先を光で局所的に刺激して、チャネルロドプシン陽性の細胞の軸索で生じ逆行性に伝達するスパイクが細胞体で検出されることを指標として、投射先脳領域により主細胞を分類する方法を立ち上げた。これらの成果から、動物が自由行動下で各種課題をおこなう最中に、個々の海馬台主細胞のどのような情報がどの脳領域へと伝搬するかという脳領域間の情報伝達を個々の細胞レベルで捉えることが可能となった。 以上の成果は当初の想定の範囲内であるため、「おおむね順調に進んでいる」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度はほぼ順調に研究が進んだので、今後は平成29年度に達成したことをもとに、さらに研究を推進していく。 まず、海馬体の神経細胞間の相互作用・機能的結合が行動の相や経験によってどのように変化するかを調べる目標では、神経細胞間のスパイク伝達効率が学習の過程、睡眠の前後、ならびに行動の相で変化していく様態を明らかにする。さらに、スパイク伝達効率が領域ならびに細胞種に依存していることを明らかにし、速度細胞・場所細胞・格子細胞・頭方向細胞の情報とスパイク伝達効率の相関を調べる。 さらに、電気生理学と光遺伝学的手法を組み合わせることで海馬台の主細胞を投射先により分類する方法を平成29年度までにほぼ確立した。しかし、記録している細胞のうち10%程度しか投射先が同定できない場合もあるため、投射先同定のためのさらなる工夫を行なっていく予定である。具体的には、チャネルロドプシンの発現の効率化、照射する光の強度や照射方法の最適化、衝突試験の高速度化、電気生理学的記録法のさらなる高密度化・大規模化などである。さらに改良を加えた投射先同定法を用いて、投射先により海馬台の主細胞を分類し、場所・報酬・罰・時間などの脳内表現を調べるのに適した行動中にこれらの主細胞から記録をとり、投射先と情報表現の相関を調べる。
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