神経成長因子(NGF)が痛覚神経軸索を誘引する過程で、軸索先端部(成長円錐)でのホスファチジン酸の役割を明らかにした。ホスファチジン酸結合蛍光プローブを遺伝子導入した神経細胞を培養し、成長円錐の片側からNGFの濃度勾配を作成し、成長円錐形質膜で生成されるホスファチジン酸を全反射蛍光顕微鏡で定量したところ、NGF投与側でホスファチジン酸の増加が検出された。次に、NGF下流でホスファチジン酸産生を触媒する酵素を同定した。ホスホリパーゼD(PLD)アイソフォーム特異的阻害剤の存在下でNGFへの応答性(成長円錐の旋回角度)を定量したところ、PLD2ではなくPLD1がホスファチジン酸産生を担うことが示された。さらに、PLD1発現をRNA干渉法で抑制した成長円錐はNGFに旋回応答性を示さなかった。PLD1の薬理学的および遺伝学的阻害は、いずれもNGFによるホスファチジン酸産生を抑制した。以上の結果から、NGFはPLD1を介して非対称ホスファチジン酸シグナルを生成し成長円錐を誘引することが示された。NGFは、成長円錐でのvesicle-associated membrane protein 2(VAMP2)依存的エキソサイトーシスを非対称化することで軸索突起を誘引することが知られている。このエキソサイトーシス非対称化にPLD1が関与するか否かを検証するため、PLD1阻害剤存在下でNGFによるエキソサイトーシス制御を解析した。成長円錐に発現させたpH感受性蛍光タンパク質付加VAMP2の蛍光強度を定量することでエキソサイトーシスを可視化したところ、PLD1阻害剤はNGFによるエキソサイトーシスの非対称化を阻害した。よって、NGF→PLD1→ホスファチジン酸→VAMP2依存的エキソサイトーシス→誘引生ガイダンスというカスケードが証明された。
|