研究課題/領域番号 |
16H04664
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
坪井 昭夫 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20163868)
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研究分担者 |
高橋 弘雄 奈良県立医科大学, 医学部, 講師 (20390685)
吉原 誠一 奈良県立医科大学, 医学部, 研究員 (90360669)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 成体神経新生 / 嗅球介在ニューロン / 神経活動依存性 / 神経可塑性 / 嗅覚系 / 神経回路形成 / 匂いの検出感度 / 匂いの識別 |
研究実績の概要 |
嗅細胞で受容された匂いの情報は、嗅覚の一次中枢である嗅球に伝達され、その後、嗅皮質に伝えられ処理されることで、匂いとして認識される。嗅球の神経回路においては、抑制性の介在ニューロン(顆粒細胞や傍糸球細胞)が、興奮性の投射ニューロンの活動を調節することにより、匂い情報が処理されている。嗅球介在ニューロンは、哺乳類では例外的に成体期でも常に新生されているが、その大多数をしめる顆粒細胞は、樹状突起の形態や産生される蛋白質の相違により、複数のサブタイプに分類される。しかしながら、嗅球で匂い情報を処理する際に、顆粒細胞の個々のサブタイプがどのような役割を果たしているのかは、これまでに殆ど明らかにされていなかった。
そこで、本研究において、嗅球介在ニューロン、特に、顆粒細胞の特定のサブタイプが発達する際に、1回膜貫通型糖蛋白質である5T4を匂い刺激に応じて産生することにより、樹状突起の枝分れを促進して、匂いを感じる度合いを高めていることを、申請者らはマウスを使った実験で、明らかにした(J Neurosci 36, 8210, 2016)。また興味深いことに、5T4遺伝子を欠損した顆粒細胞のサブタイプでは、他の神経細胞と間のシナプス結合が減少しておりその結果、匂いの検出感度が100倍も低下し、2種類の全く異なる匂いを識別できなくなっていた(J Neurosci 36, 8210, 2016)。これらの成果は、米国科学誌『The Journal of Neuroscience』(2016年8月3日号)に掲載され、その表紙を飾り、8月5日のNHKテレビ(関西 NEWS WEB)や、9月15日付の朝日新聞(全国版)の科学欄などでも取り上げられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
嗅細胞で受容された匂いの情報は、嗅覚の一次中枢である嗅球に伝達され、その後、嗅皮質に伝えられ処理されることで、匂いとして認識・識別される。嗅球の神経回路においては、抑制性の介在ニューロン(顆粒細胞や傍糸球細胞)が、興奮性の投射ニューロンの活動を調節することにより、匂い情報が処理されている。嗅球介在ニューロンは、哺乳類では例外的に成体期でも常時新生されているが、その大多数をしめる顆粒細胞は、樹状突起の形態や産生される蛋白質の相違により、複数のサブタイプに分類される。しかしながら、嗅球で匂い情報を処理する際に、顆粒細胞の個々のサブタイプがどのような役割を果たしているのかは、ほとんど明らかにされていなかった。
そこで申請者らは、本研究において、匂い情報を処理している顆粒細胞のサブタイプが発達する際に、膜蛋白質5T4を匂い刺激に応じて産生することにより、樹状突起の枝分れを促進して、匂いを感じる度合いを高めていることを明らかにした(J Neurosci 36, 8210, 2016)。また興味深いことに、5T4遺伝子を欠損した顆粒細胞のサブタイプでは、他の神経細胞と間のシナプス結合が減少しておりその結果、匂いの検出感度が100倍も低下し、2種類の全く異なる匂いを識別できなくなっていた(J Neurosci 36, 8210, 2016)。これらの成果は、The Journal of Neuroscience誌(2016年8月3日号)に掲載され、その表紙を飾り、9月15日付の朝日新聞(全国版)の科学欄などでも取り上げられた。
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今後の研究の推進方策 |
1)嗅球における成体神経新生の生理的な意義:申請者は最近、5T4・Npas4欠損マウスでは、2つの類似した匂いの識別学習の能力が低下していることを見出した(申請者ら,J Neurosci 36, 2016; Cell Rep 8, 843, 2014)。また興味深いことに、5T4欠損マウスでは、匂いの検出感度が100倍も低下していることが分かった(申請者ら,J Neurosci 36, 2016)。しかしながら、Pierre-Marie Lledo博士らや影山龍一郎博士らが成体新生ニューロンの機能を活性化・阻害したところ、匂いの識別学習には異常が見られたが、匂いの検出感度には異常が見られていない(Nat Neurosci 15, 897, 2012; J Neurosci 34, 5788, 2014)。そこで次年度の研究では、これらの結果の相違を比較検討にすることにより、嗅球における成体神経新生の生理的な意義と特定の嗅球介在ニューロンの役割を明らかにする。
2)特定の嗅球介在ニューロンの役割:他のグループはこれ迄に、成体期に新生される介在ニューロンに関する研究を行っているが、胎生期や幼若期に生まれるニューロンに着目した研究は殆ど行われていない。そこで次年度の研究では、A)胎生期に生まれ、嗅球表層での顆粒細胞の樹状突起発達に異常が生じる5T4欠損マウスと、B)胎生期と成体期に生まれ、嗅球表層と深層での顆粒細胞のスパイン形成に異常が生じるNpas4欠損マウスを用いて、新生介在ニューロンの発達異常が匂いの感知や識別学習にどのような影響を及ぼすのかを、神経回路や行動レベルで検討する。また、C)アデノ随伴ウイルスの遺伝子導入系を光遺伝学や薬理遺伝学に応用することにより、新生介在ニューロンの機能を活性化・抑制したマウスを行動学的・電気生理学的に解析することで、その役割を明らかにする。
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