研究課題
本研究では、シナプス形成・回路形成に先立つ脳発生期のCa2+シグナリングにおいて、主要なエフェクター分子として機能するCaMKIに着目し、カルシウム依存的神経細胞移動制御の新規分子機構の解明を推進している。平成29年度は以下の研究を実施した。(1)移動中神経細胞を対象としたスライスイメージング:子宮内電気穿孔法により、イメージング用のプローブを移動中神経細胞に導入し、胎生マウスより脳スライスを作製し、脳スライスを用いた蛍光イメージングを実施し、カルシウム変動、細胞体、核を同時にイメージングする手法の確立を進めた。この方法を用い、長時間のライブイメージングを実施し、カルシウム変動と細胞形態変化との関連性を検討したところ、両者の相関を見出した。(2)Ca2+‐CaMKI経路を介した神経回路形成プロセスの同定:子宮内電気穿孔法によりノックダウンを実施し、神経細胞移動の変化が認められる遺伝子を見出した。また、この際にライブイメージングを実施し、ノックダウンにより細胞移動速度の減少認められることを明らかとした。更に組織学的な検討により、移動障害を示す細胞の形態変化について定量を行い、特徴的な変化を見出した。(3)遺伝子改変動物を用いた検討:独自に作製したコンディショナルノックアウト系統を用いて、幼弱な神経細胞において目的の遺伝子を欠失させた際の細胞移動変化と形態変化を検討した。また、胎生期大脳皮質にCaMKIが発現することを、免疫染色により明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
コンディショナルノックアウトを用いた研究が順調に進み、特定分子のノックアウトにより、予想されたとおりの神経回路形成異常の表現型が得られている。更に、様々な薬理的、分子的操作に伴う細胞形態変化についても、作業仮説を支持する一貫した結果が得られている。
カルシウム-CaMKI経路を介した、神経細胞移動の全貌解明を目指し、昨年度に引き続き以下のとおり研究を進める計画である。作業仮説を支持する結果が得られており、データ取得を進めるとともに、成果の報告を目指す。(項目1)移動中神経細胞を対象としたスライスイメージング:カルシウム変動、細胞体、中心体および核のイメージングを実施し、カルシウムが細胞移動を制御する細胞基盤を明らかとする。また、薬理的にカルシウム変動を阻害あるいは亢進させた際の細胞移動の変化について詳細検討を進める。(項目2)Ca2+‐CaMKI経路を介した神経回路形成プロセスの同定:コンディショナルノックアウトマウスを用いた検討を進め、細胞移動における候補分子の必要性を示す。更に、細胞移動の異常が認められた際には、細胞小器官の変化を明らかとする。
すべて 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 3件、 招待講演 3件)
J Neurochem
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Jpn. J. Neuropsychopharmaol
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