研究課題
神経幹細胞は、胎生期に全ての神経細胞・グリア細胞を産み出すのみならず、成体脳でも一生に亘って新生神経細胞を産生し、脳の構築・機能維持に極めて重要な役割を果たす。神経幹細胞の形成や維持、分化開始を決定する因子として、エピゲノム修飾が注目を集めている。研究代表者はこれまでに、神経幹細胞の未分化性維持に関わるエピゲノム因子としてBre1aを同定し、機能解析を行ってきた。Bre1aが、多くのゲノム修飾因子の発現を制御しているという新たな知見を得たことから、本研究を計画した。Bre1aを中心に、様々なエピゲノム修飾因子が織りなすネットワークを解析することで、神経幹細胞の運命決定のメカニズムを明らかにし、多様な神経細胞・グリア細胞からなる脳が構築される根本原理を明らかにすることを目的とする。平成28年度には、Bre1aノックアウトマウスの胚盤胞から、各遺伝子型3ライン以上のES細胞を作製した。これらのBre1a-/-, Bre1a+/-, Bre1a+/+ ES細胞を用いて、RNA-seq法により遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析するとともに。定量RT-PCR法によってその結果を検証した。これまでに、胎生早期に働いている遺伝子群の発現プロファイルを獲得するとともに、樹立した複数のBre1aノックアウトES細胞の解析から、ES細胞の継代を重ねるに従ってBre1aの発現が徐々に高まることが判明した。平行して、Bre1aが媒介するヒストンH2Bのモノユビキチン化に対してChIP-seq法を適用することにより、ゲノム上でモノユビキチン化ヒストンH2Bが集積している領域の分布の解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、Bre1aノックアウトマウスから野生型・ヘテロ・ホモの遺伝子型をもつES細胞株を3ライン以上樹立し、性質を詳細に解析している。また、Bre1aが触媒するモノユビキチン化ヒストンH2Bに対してChIP-seqの条件検討を行い、最適条件を確立するとともに野生型ES細胞の全ゲノムにおけるモノユビキチン化ヒストンH2B分布のデータを獲得し始めている。従って、本研究課題は概ね順調に進展している。
上記のように、これまでに樹立した複数のBre1aノックアウトES細胞では、ES細胞の継代を重ねるとともにBre1aの発現が徐々に高まることが判明した。これは、Bre1a遺伝子のノックアウトが、レトロウイルスを用いたトラップカセットによるため、継代したES細胞ではBre1a遺伝子発現がリークによって回復すると考えられた。そこで平成29年度には、CRISPR/Cas9のゲノム編集技術を用い、Cre-loxPシステムでBre1aノックアウトを誘導できるES細胞を作製する。同時に、テトラサイクリンシステムを用いたBre1aの過剰発現系も構築する。これらのBre1aコンディッショナルノックアウト/過剰発現ES細胞を用いて、RNA-seq法により遺伝子発現プロファイルを網羅的に解析する。一方、早期胚で多能性を有する内部細胞塊の細胞が運命決定していく分子メカニズムに、Bre1aがどのように関与しているのかを解明するため、内部細胞塊から3胚葉へと分化していくときに発現調節される因子に注目し、それらの発現調節がBre1aノックアウトによってどのように異常になっているのかを明らかにしていく。
すべて 2016 その他
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Scientific Reports
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http://www.shiga-med.ac.jp/~hqphysi1/physiol1/research/index-re.html