研究課題/領域番号 |
16H04673
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研究機関 | 熊本大学 |
研究代表者 |
香月 博志 熊本大学, 大学院生命科学研究部(薬), 教授 (40240733)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳出血 / 好中球 / ミクログリア / マクロファージ / 軸索損傷 / ロイコトリエン |
研究実績の概要 |
本研究は、脳出血発症後に進行する内包領域の軸索路損傷・修復過程を大きく左右すると推定される浸潤好中球の病態生理学的役割に焦点を当て、内包出血後に脳組織内で産生される好中球走化因子の役割の解明や、好中球によって動員されるミクログリア/マクロファージ(MG/MΦ)の病態への関与の解析、MG/MΦによる浸潤好中球の制御に関する解析に加え、浸潤好中球およびMG/MΦのフェノタイプの制御が内包出血の病理・病態に及ぼす影響の解析を行い、好中球関連事象を標的とした新たな脳出血薬物治療戦略の提唱を目指す。本年度はまず、内包出血によって生じる軸索損傷の病理形成プロファイルを解析し、軸索の構造的破綻に先行して軸索輸送機能の障害が生じること、および軸索輸送機能障害が内包出血発症最初期の感覚運動機能の障害と密接に関連していることを明らかにした。次に、好中球走化因子の一つであるロイコトリエンB4 (LTB4)が内包出血病態形成に果たす役割を詳細に解析した。内包出血誘発後のマウス脳内ではLTB4含量およびLTB4合成に関わる5-リポキシゲナーゼ(5-LOX)の発現量が増加しており、内包出血誘発直後に5-LOX阻害薬を投与すると、好中球の脳内浸潤およびマウスの運動機能障害が抑制された。またLTB4受容体であるBLT1を欠損したマウスでは内包出血後の好中球浸潤および運動機能障害が野生型マウスと比較して軽度であった。さらに、BLT遮断薬は内包出血誘発3時間後からの投与で好中球浸潤、MG/MΦ活性化、軸索損傷および運動機能障害を著明に抑制した。これらの結果から、LTB4の介在する脳内への好中球浸潤が脳出血病態形成において重要な役割を持つことが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脳出血に伴う軸索損傷の病理の解析、および好中球走化因子LTB4の脳出血病態形成への関与の解析を進め、MG/MΦ活性化と軸索損傷を伴う出血性脳卒中の病態における好中球の重要な役割を示唆する多角的な実験的証拠を得た。また、MG細胞株であるBV-2細胞を用いた基礎検討も並行して進め、MG活性化を制御できるいくつかの薬理学的ツールを見出しており、今後も予定している研究項目を滞りなく実施できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)内包出血病態形成における浸潤好中球の役割の解明:抗PMN抗体の繰返し投与による好中球の持続的枯渇が内包出血の病態に及ぼす影響を検討する。線維束構造の破綻・修復に対する効果や長期的な運動機能障害への影響を解析するのに加え、浸潤好中球およびMG/MΦフェノタイプの脳内分布の時系列的変化を明らかにする。また、軸索傷害の病理解析のためのin vitro実験系の構築を進め、病理形成過程における好中球の役割を解析する。ラット全血より採取した好中球(もしくは好中球様に分化させたHL-60細胞)を血中プロテアーゼ処置後の培養組織切片に添加し、軸索構造の病理、軸索輸送機能の障害、オリゴデンドロサイトの傷害、軸索伝導に対する増悪効果を調べる。組織内MGフェノタイプに対する好中球添加の影響も調べる。 2)内包出血病態形成における好中球走化因子の役割の解明:LTB4およびケモカインCXCL2のシグナルの遮断が内包出血病態に及ぼす効果を解析する。後期相の好中球浸潤のみを抑制することを企図して、遮断薬の投与を出血誘発24~48時間後に開始した場合について検討する。また皮膚組織損傷ではCXCL2とLTB4が協調して好中球浸潤を促進するとの知見があるため、両者の遮断薬・阻害薬の併用による効果についても検討する。 3)好中球-MG/MΦフェノタイプ連関を標的とした内包出血病態への治療介入法の検証:MGのM1型への極性化にIRFファミリー転写因子であるIRF-8が寄与するとの報告がある。また研究代表者らは、MGのM2型極性化においてIRF-4が中心的役割を担うことを近年見出した。そこでIRF-8のノックダウンおよびIRF-4遺伝子導入によってM1/M2極性化を操作し、内包出血に伴う病理(好中球フェノタイプへの影響含む)・神経症状に及ぼす効果を検討する。
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