研究実績の概要 |
シナプス終末からの神経伝達物質の放出は、我々哺乳類脳内のシグナル伝達に必須な過程であるが、神経伝達物質を貯蔵するシナプス小胞を取り巻く諸処の素過程は、細胞内反応であるがために測定方法に限界があり、詳細は不明な点が多い。本研究課題では、各種pH感受性蛍光プローブを応用したシナプス小胞ないイメージングを行い、神経伝達物質充填や活動依存的なシナプス小胞動態について、以下の知見を得た。 【1】SNARE多様性によるシナプス小胞動態制御:シナプス小胞のプロテオミクス解析の結果から、シナプス小胞には開口放出に必須なシナプトブレビンに加え、非神経細胞ではエンドソームやゴルジ装置などのオルガネラに存在するSNAREタンパク質が多種類存在することが示唆された。これら非典型的SNAREタンパク質にpHプローブを融合させ、それらのシナプス終末における動態特性を網羅的に解析した結果、シナプス終末には刺激強度によって動員される小胞が異なることが示唆された(投稿準備中)。 【2】エンドサイトーシスにおける小胞タンパク質の挿入機構:開口放出後、新しいシナプス小胞膜はエンドサイトーシスによって再合成されるが、温度や刺激強度の条件により多種多様な分子機構で起こる。この際にシナプス小胞タンパク質が新しい小胞膜に挿入される折に重要なタンパク質内モチーフについての過去の知見を総説にまとめて上梓した(Mori & Takamori, Front Cell Neurosci, 2018)。また、異なるエンドサイトーシス機構における小胞タンパク質内モチーフの役割を解明するために、複数の小胞膜タンパク質変異体遺伝子(VGLUT1/SV2A等)とpH感受性プローブとの融合体を作成し、シナプス内動態観察の準備を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の中心的なテーマの一つである神経伝達物質再充填機構についての既報(Egashira et al., PNAS, 2016)を更に発展させる目的で行った興奮性神経特異的遺伝子発現ヴェクターの開発成果を論文投稿中であり、次年度中の掲載を予定している(Egashira et al., Sci Rep, in revision)。 また、もう一つの骨子である非典型的SNAREタンパク質のイメージング解析からは、従来予測されていなかった「刺激依存的なシナプス小胞プール」の存在を示唆する成果が得られており、現在投稿準備の最終段階に差し掛かっている (Mori et al., in preparation)。 上記の研究項目以外にも、小胞膜Ca2+輸送体の性状解析、インスリン分泌促進ホルモンのシナプス作用の解析などにpH感受性プローブを用いた小胞イメージングを応用して着実に成果を上げていることから、「おおむね順調に進展している」と言える。
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