研究課題/領域番号 |
16H04678
|
研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
中田 和人 筑波大学, 生命環境系, 教授 (80323244)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | ミトコンドリア / ミトコンドリアゲノム / ミトコンドリアゲノム変異 / エネルギー産生不全 / ミトコンドリア病 / 病態モデルマウス |
研究実績の概要 |
本研究では、変異型mtDNA分子種を導入したマウス群を活用して、変異型mtDNA分子種による多様な病型形成機構を多階層病理として捉え、ミトコンドリアセントラルドグマの破綻病理の解明を目指している。今年度の研究実績は以下の通りである。
1. 変異型mtDNA分子種間の差異による制御(変異分子種の階層):本項目の解析には、変異型mtDNAを導入した多様なモデルマウスの作出と活用が必須である。そこで、既存の3種の変異型mtDNA導入マウスに加え、ミトコンドリアtRNA遺伝子に病原性の突然変異を含有する新たなモデウマウスの作製に注力した。今年度は、tRNA-Lue (UUR) 遺伝子に病原性点突然変異を有するmtDNA分子種を導入したキメラマウスの作製に成功した。作製したキメラマウスの臓器の詳細解析から、導入した変異型mtDNAが蓄積した時のみミトコンドリア呼吸の低下が誘導されることを見出した。 2. 組織特異的な変異型mtDNA分子種の蓄積動態の差異による制御(組織・細胞種の階層):欠失型mtDNAを含有するマウスと組織特異的にミトコンドリア分裂因子(Drp1)を破壊したマウスを交配させ、臓器(肝臓と血液)特異的にミトコンドリア分裂を抑制し、かつ、欠失型mtDNA を含有する新たなモデルマウスの詳細解析を実施した。このマウスでは、ミトコンドリア呼吸機能異常、障害ミトコンドリアの蓄積、糖新生の更新、高血糖、乳酸血症状、貧血などの病態誘導が観察された。 3. 核ゲノム背景やストレス環境下での高次病原性制御(核―ミトコンドリアの協調階層):糖尿病を発症し、かつ、変異型mtDNAを含有するマウス群を樹立し、詳細解析した結果、糖尿病環境がミトコンドリアバイオジェネシスを抑制し、変異型mtDNAの病原性を増強することが分かった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 変異型mtDNA分子種間の差異による制御(変異分子種の階層):マウス生体内で優位な蓄積がおこった時のみ、その病原性を発揮するミトコンドリアtRNA遺伝子に点突然変異を含有するキメラマウスに作製に成功している。モデルマウスの樹立にはGerm-line transmissionを介して全身性に当該変異分子を全身性に導入する必要性があるが、複数のキメラマウス個体を恒常的に得ることができているため、近未来的にモデルマウスとして樹立できると考えている。
2. 組織特異的な変異型mtDNA分子種の蓄積動態の差異による制御(組織・細胞種の階層):変異型mtDNA分子の病原性発揮機構のみならず、その動態制御に、ミトコンドリアの分裂の適応的な増強が重要であるという、新たな視点を開拓している。
3. 核ゲノム背景やストレス環境下での高次病原性制御(核―ミトコンドリアの協調階層):糖尿病環境が変異型mtDNAの分子病理に影響を及ぼすという新たな病理階層の存在を実験的に観察している。
|
今後の研究の推進方策 |
1. 変異型mtDNA分子種間の差異による制御(変異分子種の階層):作製しているキメラマウスの交配を繰り返し、新たなモデルマウスの樹立に注力する。また、新たな変異型mtDNA分子種をマウス培養細胞に見出したため、この変異型mtDNA分子種を含有するキメラマウスの作製を実施する。
2. 組織特異的な変異型mtDNA分子種の蓄積動態の差異による制御(組織・細胞種の階層):変異型mtDNAを含有しDrp1組織特異的に破壊されたモデルマウスで発症する各種病態の発症機構を詳細解析する。特に、血液細胞では細胞種特異的に感受性が異なる可能性を見出しているため、この現象を詳細解明したい。
3. 核ゲノム背景やストレス環境での高次病原性制御(核―ミトコンドリアの協調階層):db/dbの核を有し、変異型mtDNAを含有するマウス群の病態解析を継続実施する。特に、糖尿病環境によって変異型mtDNAの蓄積動態を変化させる分子基盤の解明を目指したい。
|