本研究では、変異型mtDNA分子種を導入したマウス群を活用して、変異型 mtDNA分子種による多様な病型形成機構を、項目1)変異型mtDNA分子種間の差異による制御(変異分子種の階層)、項目2)組織特異的な変異型mtDNA分子種の蓄積動態の差異による制御(組織・細胞 種の階層)、項目3)核ゲノム背景やストレス環境下での高次病原性制御(核―ミトコンドリアの協調階層)という多階層病理として捉え、ミトコンドリアセントラルドグマの破綻病理の解明を目指した。項目1)については、昨年度までにミトコンドリアtRNA-Lue (UUR) 遺伝子に病原性点突然変異(A3302G)を有するキメラマウスの作製に至っていた。今年度は、このキメラマウスから全身性にこの変異型mtDNA分子種を含有するミトマウスの作出に成功した。現在、このミトマウスの系統維持と病態解析を実施している。項目2)については、糖尿病の核ゲノム背景(db /db)のミトマウスでは、肝臓や膵臓における変異型mtDNAのさらなる蓄積が誘導されることを見出した。これらの結果は、組織特異的な変異型mtDNAの蓄積動態に核ゲノム背景や生体環境が重要な役割を果たすことを示唆している。また、この蓄積動態を変化させる分子基盤として、ミトコンドリアの分裂・融合が寄与する可能性を検証した。項目3)については、糖尿病の核ゲノム背景(db /db)のミトマウスでは、野生型の核ゲノム背景のミトマウスでは観察されなかった肝機能障害の発症が観察された。この結果は、核ゲノムとmtDNAの相互作用によって、多様な病態が発症することを実験的に示唆している。
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