研究課題
本研究計画では、急性感染期にはリンパ球が、後期にはマクロファージが主要な標的細胞となる高病原性SHIV/アカゲザル感染系を用いてエイズ病態の進行と感染マクロファージの関係を明らかにするための基礎的情報を得ることを目的とする。以前の研究でSIV感染サルに抗ウイルス剤を適用した所、SIV感染サルの血中ウイルスRNA量は2相性に減衰し検出限界以下になった。同一の抗ウイルス剤を接種8週後からSHIV感染サルに適用した所、SHIV感染サルの血中ウイルスRNA量は3相性に減衰し1000コピー/mlのウイルス量で安定化した。このウイルスRNA量の安定化は再現性があるか検証するため3頭のサルに高病原性SHIVを接種したところ、2頭のサルでは典型的な高病原性の感染病態を呈さなかったため解析出来なかったが、1頭のサルは典型的な高病原性SHIV感染を起こした。このサルに抗ウイルス剤を適用した所、3相性の減衰の後、約1000コピー/mlのウイルス量で安定化した。すなわち再現性が確認された。SIVとSHIV感染サルにおけるウイルス量減衰動態の違いはそもそも高病原性SHIVが、適用した抗ウイルス剤に抵抗性であるため起こったのか検証するため、3頭のSHIV感染サルに急性期(接種9及び10日後)から抗ウイルス剤を適用した所、ウイルスRNA量は2相性に減衰し、検出限界以下に抑制された。従って、SHIVはこれら抗ウイルス剤に感受性である事が明らかとなった。高病原性SHIV感染8週後には体内のリンパ球はほぼ完全に枯渇しており、ウイルス感染細胞はマクロファージである事が、以前の研究から推定される。この結果はマクロファージに感染したウイルスには現行の抗ウイルス剤の効果が限定的である事を示している可能性があり、基礎生物学的な意義に加えてエイズ治療においても重要な知見と考えられる。
3: やや遅れている
本年度は確実に高病原性SHIV感染病態を再現するため、接種ウイルス量の増量及び接種サルの選抜を行ったが、接種サル3頭のうち2頭では高病原性SHIV感染病態を再現できなかった。現在まで、高病原性SHIV病態を再現したサルは2頭作り出す事が出来たが、統計学的検定に必要な最低3頭には未だ足りていない。高病原性SHIV病態再現の予想外の困難さが遅れの主な理由である。また、本来計画していたSIV実験を行うには、サルを購入するための研究費が十分ではないためSHIV感染系に集中して実験を行うこととする。
SIV実験は、資金的にも時間的にも実施が難しくなったが、一方で、SHIV実験から予想外の結果が出つつあり、この知見は基礎ウイルス学的ならびに生物学的意義だけでなく、エイズ治療においても重要な知見と考えられるため、計画を変更し、SHIV感染実験に絞って、確実な結果を出すこととする。具体的には接種サルの選抜をより厳格に行い、リンパ球のウイルス感受性が特別高い個体を実験に供する事とし、確実に高病原性SHIV感染病態のサルを作り出せる様にする。また、これらのサルの病理組織学的検索を通して、各組織におけるウイルス量やウイルス感染細胞の詳細な解析を行う。
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