研究課題
本研究では、HIV-1感染症の病態におけるマクロファージの意義の解明を目指し、高病原性SHIV感染サルで誘導されるマクロファージ感染期にcARTを施し、感染マクロファージの半減期を推定した。急性期治療群として3頭、慢性期治療群として3頭のアカゲザルにSHIV-KS661を静脈内接種し、経時的に採血・肺胞洗浄を実施した。血漿中及び肺胞洗浄液上清中のRNAは定量的RT-PCR法を用いて測定した。経時的に肺胞マクロファージを調整し、ウイルス産生マクロファージ数を算出した。非治療群として5頭のアガゲザルにウイルスを接種し、同様の解析を行った。血漿中ウイルスRNAは、接種10~14日後にピークに達し、6~8週後にかけて安定した。非治療群では、8週以降も高い値を保持した。急性期治療群は、ピーク後セットポイントに移行せず10週後に検出限界以下まで減少した。慢性期治療群のウイルスRNAは、cART後、急激な第一相減衰、緩やかな第二相減衰、定常的な状態の第三相減衰を示した。第三相では2頭のウイルスRNAが1000copies/ml以上で維持されていた。肺胞マクロファージ中のウイルス産生細胞数は、非治療群は接種7週後にピークを迎え、その後も高い値を維持した。治療群では、cART前には非治療群と同等のウイルス産生マクロファージが存在していたが、治療開始5~9週後には検出限界まで減少した。血漿中ウイルスRNAが治療後に急激に減衰したことから、感染マクロファージには感染リンパ球よりも半減期が短いものが存在していたと考えられる。さらに減衰曲線が三相性を示したことは、高病原性SHIV感染マクロファージは半減期の短い集団や長い集団で構成されている可能性を示唆するものである。第三相が顕在化した理由としては、感染マクロファージの割合が多かったことが関与した可能性が示唆される。
3: やや遅れている
本年度は確実に高病原性SHIV感染病態を再現するため、接種ウイルス量の増量及び接種サルの選抜を行った。現在までに、高病原性SHIV病態を再現したサルは3頭作り出す事が出来た。また、当初計画していたSIV実験を行うには、研究費が足りないためSHIV感染実験に集中して実験を行うこととした。
SIV実験は、資金的にも時間的にも実施は無理となったが、一方で、SHIV実験から有益な結果が出つつあり、この知見は基礎ウイルス学的ならびに生物学的意義だけでなく、エイズ治療においても重要な知見と考えられるため、SHIV感染実験に絞って、確実に結果を出すこととした。具体的には接種サルの選抜をより厳格に行い、リンパ球のウイルス感受性が特別高い個体を実験に供する事によって、確実に高病原性SHIV感染病態のサルを作り出せる様になった。今後はcARTを施した個体から採取した組織を用い、第三相におけるウイルスRNA陽性細胞を検討することにより、リザーバーの解明に役立つ情報を得たい。
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