申請者は、実験動物「マウス」のC57BL/6J (B6)系統と、日本産近交系のMSM/Ms (MSM)系統の交配により樹立されたコンソミック(染色体置換)系統群を利用して、肥満表現型を対象にした順遺伝学的解析を行い、脳で発現する機能未知の関連遺伝子Aobs1(オーブ1)を同定した。Aobs1の機能を喪失させたマウスは、B6の遺伝的背景で過食による肥満を惹起する。なお、ヒトではAobs1の相同遺伝子近傍に、肥満・脂質代謝異常のQTLが検出されている。 本申請研究は、中枢神経系におけるマウスAobs1の機能を解明すること、ならびにAobs1の機能不全が、実験用マウスの遺伝的背景に依存して過食と肥満を惹起するメカニズムを明らかにすることを目的としている。また、Aobs1変異マウスを過食と肥満の実験動物として確立することも目的とした。 本年度は、前年度に引き続きAobs1が機能する神経回路の同定と、Aobs1の相互作用因子の探索を行った。また、Aobs1遺伝子改変マウスを利活用して以下の解析を行った。肥満やエネルギー代謝に関連した表現型データの統合解析。レポータ遺伝子の脳内発現部位を参考にした、各種染色法による詳細な神経細胞の組織学的観察。コンディショナルノックアウトを利用した表現型の解析。新学術領域研究「先進ゲノム支援」により支援を受けて情報を得た、脳組織でコントロールと比較した際に発現差のある遺伝子の検証実験。コントロールを用いた、レプチン投与による各種神経核の活性化の違いの比較。一連の解析によりAobs1の機能を総合的に検討したところ、マウスのAobs1は中枢で機能して、摂食行動における脳内のレプチンシグナルの伝達に関わる可能性が高いことが示唆された。また、我々が使用したマウスコンソミック系統で確認された肥満表現型は、Aobs1のB6の遺伝的背景におけるMSMアレルの影響により惹起されたものであると考えられた。
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