研究課題
胎盤は妊娠期に見られる哺乳動物特異的な器官であり、妊娠期間中に母体の子宮内で胎児の成長を維持する機能を有している。胎盤特異的刷り込み発現遺伝子として Sfmbt2が知られている。Sfmbt2は胎盤形成に重要な役割を持っていると考えられるが、その機能は明らかになっていない。本研究では、Sfmbt2のイントロン内にコードされているマイクロ(mi)RNAクラスターの役割を明らかにすると共に、そのhost遺伝子であるSfmbt2の機能も明らかにすることを目的としている。前年度までにSfmbt2 miRNAクラスターの欠損マウスを用いて、胎盤発生におけるmiRNAクラスターの役割を明らかにした。引き続きその機能を理解するために、平成30年度は以下の内容について研究を行っ た。(1)Sfmbt2 miRNAクラスターのターゲット遺伝子の解析:Sfmbt2 miRNAクラスターのターゲット遺伝子として選抜した9種の遺伝子に対して、CRISPR/Cas9によるゲノム編集技術を応用して、発現低下に対する胎盤形成への影響を観察した。(2)SFMBT2タンパクに対する抗体の選別:host遺伝子であるSfmbt2の機能解析を行うために、SFMBT2タンパク抗体の作成を試みた。残念ながらこれまでのところ信頼性のある抗体が得られておらず、抗体を用いた解析は困難となっている。(3)Sfmbt2欠損マウスの表現型解析:昨年度に作製したSfmbt2欠損マウスの表現型解析を行った。Sfmbt2は胎盤特異的な父性発現刷り込み遺伝子であるが、父性アレルの遺伝子欠損においても表現型が観察されないことが明らかとなった。一方、homozygousの遺伝子欠損では妊娠中期までに胎盤の低形成が起こり、胎性致死となる事が明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
本研究においては、遺伝子欠損マウスの作製により、Sfmbt2遺伝子、またはそのmiRNAクラスターの機能解析を行うことを計画していたが、いずれもゲノム編集技術により順調に作製が終了しており、現在はそれらを用いて当該遺伝子の機能解析を行っている段階である。計画において予期していなかった出来事として、(1)SFMBT2抗体が作製できないこと、(2)父性アレル欠損における表現型が表出しないこと、が挙げられるが、今後は(1)tagを挿入したノックインマウスを作製すること、(2)homozygousマウスを作出し、表現型解析を行うこと、を今後の方策として、引き続き研究を進めていく予定である。
昨年度までの経過に基づいて、今後は以下の内容でさらに研究を進めていく予定である。(1)Sfmbt2 miRNAクラスターのターゲット遺伝子の解析:Sfmbt2 miRNAクラスターのターゲット遺伝子としてin silicoにより選抜した9種の遺伝子に対して、発現量の低下に対する胎盤形成への影響を観察したが、現在までに単独で胎盤形成異常を引き起こす遺伝子が確認されていない。本年度は、複数遺伝子の組み合わせによる表現型解析を行うと共に、ルシフェラーゼアッセイなどを用いてin vitroの手法を取り入れ、解析を行う予定である。(2)Sfmbt2ノックインマウスの作製:現在までに市販・自作の製品を含めて、複数種の抗体の試験を行ったが、良好な染色像を示すSFMBT2タンパク抗体は得られていない。本年度はtag配列を導入したSfmbt2ノックインマウスを作製し、局在確認などの解析に用いる予定である。(3)Sfmbt2欠損マウスの表現型解析:ノックアウトマウスの利用により、Sfmbt2 homozygousノックアウトマウスは重篤な胎盤形成異常を引き起こし、胎性致死になる事が明らかとなった。本年度は、形態観察などをより詳細に行い、胎盤異常の特性を明らかにしていく予定である。
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