研究課題
腫瘍では様々な間質細胞が連携して癌の進行に有利な微小環境を作っている。個々の間質細胞からヘテロな間質細胞の複合作用に解析を進め、癌の悪性化を誘導する間質細胞ネットワークの機構を明らかにする事を目的にしている。具体的には中皮細胞の可視化マウスでの知見から「新規中皮ニッチの作る胃癌の局所浸潤」と、「腹膜転移の場を形成する腸間膜微小器官」をとりあげ、中皮細胞を軸として線維芽細胞、マクロファージが癌の浸潤誘導や腫瘍組織の形態形成に及ぼす複合作用を明らかにする。胃癌では漿膜中皮細胞が胃壁内に侵入して線維化を伴うニッチを形成し、これが胃癌の更なる深部浸潤を誘導する場となる事を見ている。その機序となる遺伝子解析を行うため、腹膜中皮細胞を蛍光ラベルで可視化したトランスジェニックマウスの胃に癌細胞を移植し、胃壁に侵入した中皮細胞を採取しRNA試料を作成した。今後はそれを基に、非担癌マウス胃の中皮細胞を対照群にしてRNAシークエンスによる差異解析を行い、活性化中皮細胞が癌・線維芽細胞の浸潤を誘導する分子基盤を作成してゆく。一方で、漿膜中皮細胞の胃壁内侵入は、腫瘍塊が産生する細胞外小胞によって誘導される事を見出している。その際、細胞外小胞はいかに線維化を伴う組織中を移動して中皮細胞にその情報を伝達しているのかを検討した。その結果、癌細胞の産生する細胞外小胞は受動的な拡散ではなく、マクロファージによる運搬と小胞の受け渡しにより、漿膜中皮をはじめ周辺の間質細胞に伝達されている知見が得られた。また腹膜中皮細胞可視化マウスから、担癌および非担癌対象群の腸間膜微小器官を採取しRNA試料を準備した。
2: おおむね順調に進展している
当初、解析サンプルとして遺伝子改変マウスから採取を予定していた中皮ニッチ細胞が、見込みより採取量が少なく、同マウスの交配実験期間を延長する必要性が生じた。しかし、その後は順調に解析サンプルが採取でき、結果的にはほぼ当初のスケジュールに復帰できた。また癌組織の情報を周辺間質細胞にリレーする機構として、マクロファージを介した中皮細胞、線維芽細胞間の伝達について新規知見が得られ、今後の展開に結び付いている。
これまでに作成した「胃癌の深部浸潤を誘導する漿膜中皮細胞」および「腹膜微小器官」のRNA試料から次世代シークエンスによるRNA発現差異解析を行う。その中から、活性化中皮細胞が癌とその付随間質細胞(線維芽細胞、マクロファージなど)の浸潤を誘導する分子群、および癌細胞外小胞により活性化する腹膜微小器官の分子群を同定し、その機能解析を進める。特に候補分子の発現により、癌組織の侵入や転移を誘導するプレ・ニッチを形成するものの絞り込みを行う。当該候補分子を対象にCRISPR/Cas9やウイルスベクターでのノックダウンによる発現調節を基盤とした腫瘍抑制効果の判定と、実際のヒト腫瘍組織標本を用いた発現スコアと予後判定の相関解析から、新規治療対象となる分子を選定する。最終的にはそれらの機能遮断ツールの作成を目指す。また腫瘍組織由来の細胞外小胞の組織内伝達機構として、マクロファージが貪食した小胞をさらに第三の間質細胞に受け渡す新規機構についての解析を進める。そのイメージングと分子解析から、新たな細胞外小胞の情報伝達・制御の様式を明らかにしてゆく。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.med.akita-u.ac.jp/~seika2/Akita_Univ._Dept._Molecular_Biochemistry/youkoso.html