研究課題/領域番号 |
16H04696
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 上皮間葉転換 / TGF-beta / Smad / lncRNA |
研究実績の概要 |
前年度までの研究でTGF-betaで誘導され、上皮間葉転換(EMT)に機能する長鎖ノンコーデイングRNA(lncRNA)としてELIT-1を見出した。我々はELIT-1のマイクロアレイ解析の過程で新たにTGF-betaで誘導される新規lncRNAをTGF-beta-induced lncRNA(TIB-lnc-1)見出した。本年度は予定を変更してまずTIB-lnc-1の機能の解析を行った。A549およびHuh7細胞にTIB-lnc-1 siRNAをトランスフェクトしTGF-betaで刺激し、上皮間葉転換様の細胞形態変化とそれに関与するEMT関連遺伝子の発現に対する影響を解析した。おの結果、TIB-lnc-1によりTGF-betaによって誘導される上皮間葉転換とそれに伴うEMT関連遺伝子の発現が抑制されることがわかった。この結果TIB-lnc-1はEMTを正に制御するlncRNAであることが判明した。今後の分子機構の解析が必要と考えている。一方でELIT-1の機能については、lncRNAとその結合因子の結合を免疫沈降により解析するRIP-assayを用いて解析したところ、ELIT-1はSmad3と結合することが判明した。興味深いことにSmad2とは結合せずに選択的にSmad3と結合することが判明した。また、細胞にELIT-1とSmad標的プロモーターを含むレポータープラスミドである(CAGA)12-MLP-Lucや4xSBE-MLP-Lucをトランスフェクトしてルシフエラーゼ活性を解析したところ、ELIT-1の共発現によりSmad依存的転写活性が増強されることが判明した。このことによりELIT-1はSmad3との結合し、Smad標的プロモーター活性を増強する機能を持つことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ELIT-1のマイクロアレイ解析の過程で新たにTGF-betaで誘導される新規lncRNAをTGF-beta-induced lncRNA(TIB-lnc-1)見出した。本研究課題の目標は「長鎖ncRNAが担うTGF-beta経路の新規調節機構とがん細胞の運命制御」の解明であるので、ELIT-1以外にもTGF-beta経路の機能制御、細胞運命に関わるlncRNAの解析をしなければならない。よって本年度は予定を変更してTIB-lnc-1の機能の解析を行った。その結果、TIB-lnc-1はELIT-1と同様にTGF-betaによって誘導され、TGF-betaによって誘導されるEMTを正に制御するlncRNAであることが判明した。今後はその分子機構の解析も必要であるが、次年度以降に回し、その後はELIT-1の分子機構の解析に戻った。その結果ELIT-1はSmad3との結合し、Smad標的プロモーター活性を増強する機能を持つことが示唆されたが、それ以上の解析は次年度に持ち越された。このように新たに重要なlncRNAが見つかったことにより研究計画に遅れが生じた。
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今後の研究の推進方策 |
ELIT-1がSmad3と結合してSmad標的プロモーター活性を増強する分子機構を解析することはELIT-1の分子機能の解明とTGF-betaシグナル伝達機構の全容解明に重要である。そこで細胞を細胞質と核に分画して、TGF-beta 刺激によるELIT-1-Smad3複合体の局在変化とSmad3のリン酸化への影響を解析する。さらにChIP-assayで、TGF-beta 刺激によりSmad標的遺伝子にELIT-1-Smad3複合体が結合するのか?するならどこに結合するのか等を解析して、ELIT-1のTGF-betaシグナル伝達機構における分子機能を明らかにする。一方で、上皮間葉転換はがんの転移/浸潤や薬剤耐性などの亢進の原因となる。ELIT-1ノックアウト細胞を作成し、ELIT-1はそれに関与するのかを動物実験を行い検証する。一方で、TIB-lnc-1に関してはそのノックダウンによる遺伝子変動をマイクロアレイ等で解析してTIB-lnc-1の分子機能にアプローチする。
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