研究課題
血管新生は、組織損傷時の修復過程や固形腫瘍増殖、さらには臓器再生に必須であり、その制御は血管内皮細胞の増殖促進と抑制のバランス制御で成立している。申請者らは、これまでに血管新生のバランスを制御する分子を探索し、その中心的役割を担うと考えられる分子機構として、CUL3型ユビキチンリガーゼを見出した。本研究では、このCUL3システムを血管新生バランス制御の本体と位置づけし、その制御ネットワークを解明するため、以下の事項を解析し、結果を得た。1、CUL3パートナーBTBP(基質受容体)の探索・同定:まず、血管内皮細胞に発現が認められる60種のBTBPをビオチンタグで、CUL3をFLAGタグで標識したリコンビナントタンパク質を、小麦胚芽無細胞タンパク質合成系を用いて試験管内合成した。これを用いて、タンパク質試験管内相互作用解析法(アルファスクリーン法)によりCUL3と60種のBTBPとの結合を定性解析し、約40種のBTBPがCUL3と結合しうることを確認した。2、CUL3パートナーBTBPの血管新生制御解析:同定した約40種のBTBPに対するsiRNAを作成し、これを用いた遺伝子ノックダウン法により血管内皮細胞のインビトロ血管形成能を評価することで、血管新生を制御する4種のBTBPを同定した。この中の1つSPOPが血管内皮細胞増殖因子VEGFの受容体であるVEGFR2の遺伝子発現を制御することを明らかにした。さらに、CUL3-SPOPの基質探索を行い、その候補の1つとしてDAXXを同定した。CUL3-SPOP-DAXX軸の解析からVEGFR2の遺伝子発現をエピゲノムレベルで制御することを明らかにした。また、CUL3-SPOP-DAXX軸は、VEGFR2のみならず、Notch、Dll4、NRP1などの重要な血管新生因子遺伝子をも制御することを明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
28年度の当初予定は、血管内皮細胞で作動しているCUL3―BTBP軸の見積もりと血管新生を制御するCUL3―BTBP軸の同定を主とした。当初予定通り、まずCUL3パートナーBTBPの探索・同定に向け、血管内皮細胞に発現が認められる60種のBTBPをビオチンタグで、CUL3をFLAGタグで標識したリコンビナントタンパク質を試験管内合成し、これを用いて、アルファスクリーンシステムによりタンパク質相互作用解析を行なった。その結果、極めて高いSN比を示す解析結果と良好な再現性を得て、早期に約40種のBTBPを抽出することができた。また、この約40種のBTBPに対するsiRNAを用いた遺伝子ノックダウン法により血管内皮細胞のインビトロ血管形成能を評価することで、血管新生を制御する4種のBTBPを同定し、血管新生に重要な4種のCUL3―BTBP軸を同定できた。28年度の計画ではここまでを想定していたが、4種のCUL3―BTBP軸の中の1つであるCUL3-SPOP軸の標的基質同定、ならびに機能解析にまで至り、29年度予定の一部を前倒しに遂行することができた。その要因として、当研究センターに、試験管内タンパク質合成やアルファスクリーンシステム構築、並びに機能解析(エピゲノム解析)に精通する研究者のお力添えを得ることができたことが挙げられる。
28年度で同定することができた血管新生制御に関与する4種のCUL3―BTBP軸の残り3種について、その標的基質同定、機能解析を推し進める。さらには、同定する4種のCUL3―BTBP-基質軸の血管新生制御に向けた標的分子としての有用性を、個体レベルで検証できるところまで進めたい。
すべて 2017 2016 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 2件) 備考 (1件)
Sci Rep.
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