研究課題
肥満はがんのリスクファクターでもあることが知られているが、その機構は十分にはわかっていない。申請者らはマウスモデルを用いて、肥満にともない増加する腸内細菌代謝物が腸肝循環により肝臓に到達し、肝星細胞に作用してサイトカイン等の分泌促進が起こり、肝がん促進的な微小環境が形成されることを明らかにした(Yoshimoto et al.2013 Nature)。しかし、この肥満誘導性肝がんの微小環境における様々な分泌因子の相互作用は明らかになっていない。申請者らはこのがん微小環境における肝星細胞で著しく高発現しているサイトカインIL-33の標的細胞候補として、そのレセプターであるST2陽性の制御性T細胞(ST2+Treg)を同定した。このST2+Tregは活性化しており、本研究ではIL-33-ST2+Treg経路が抗腫瘍免疫を抑制し、肝がんを促進する可能性を検証する。本研究により腸炎やアレルギーだけでなく、がん進展にIL-33-ST2+Treg経路が関与することが明らかになり、抗腫瘍免疫を標的とした新規がん治療法の開発に繋がる可能性がある。これまでの2年間の研究実施により、細胞老化とSASPを起こした肝星細胞から、切断された活性化型フォームのIL-33が分泌されていることが分かった。詳細を調べると、興味深いことに、SASP因子のひとつと考えられるエラスターゼの一種がIL-33を切断して活性化型フォームを形成し、ST2陽性Tregに作用している可能性が示唆された。SASP因子同士の相互作用という点で、興味深い知見が得られている。
2: おおむね順調に進展している
本モデルでは肝星細胞の細胞老化にとのなうSASP現象が生じ、その結果、多くのサイトカインやプロテアーゼなどのいわゆるSASP因子が腫瘍部の肝星細胞で高発現していることを確認しており、IL-33もSASP因子のひとつとして高発現していると考えらえる。肥満誘導性肝がんの腫瘍部でIL-33と同時に高発現するプロテアーゼとして、CELA1が検出された。そこで、CELA1がIL-33のプロセシングに関与するかどうか、リコンビナント蛋白を用いて検討したところ、CELA1がIL-33を活性化型にプロセシングすることがわかった。さらに当該年度には、培養細胞にIL-33とCELA1を高発現させ、生細胞でもCELA1によるIL-33のプロセシングが起こることを確認した。また、IL-33のレセプターであるST2陽性のTregを肝臓から取り出し、IL-33の添加によって、Tregが活性化するかどうか解析中である。In vivoではIL33の投与によって肥満誘導性肝がんが促進されることを確認した。これまで、計画した実験は実施し、結果が得られている。さらに、次年度の解析に向けて、Treg特異的ST2ノックアウトマウスを入手し、肝発がん実験を行っている。
次年度には、ST2+Tregの活性化について、in vitroでIL-33を添加し、ST2+Tregの活性化を調べると同時に、in vivoでもTreg特異的ST2のコンディショナルKOマウスで腫瘍形成抑制を検証する。① IL-33-ST2 経路によるST2+Tregの活性化:in vitroの検証実験肥満誘導性肝がんの組織から、ST2陽性Tregを採取し、培養容器に移す。そこへ、リコンビナントIL-33を添加し、継時的に培地を回収し、Tregから抑制性サイトカインや抑制性因子が放出されるかどうか、エライザやマルチプレックスアッセイの手法を用いて検討する。また、細胞傷害性CD8陽性T細胞やNK細胞と共培養し、細胞傷害性因子の機能が抑制されるかどうか検討する。② Treg特異的ST2のコンディショナルKOマウスで腫瘍形成抑制をin vivoで検証Treg特異的ST2ノックアウトマウスを作出(Foxp3-Cre x ST2-flox)し、肥満誘導性肝がん誘発実験を行い、腫瘍形成の増減の検討を続ける。
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