研究実績の概要 |
肥満はがんのリスクファクターでもあることが知られているが、その機構は十分にはわかっていない。申請者らはマウスモデルを用いて、肥満にともない増加する腸内細菌代謝物が腸肝循環により肝臓に到達し、肝星細胞に作用してサイトカイン等の分泌促進が起こり、肝がん促進的な微小環境が形成されることを明らかにした(Yoshimoto et al. Nature 2013, Loo et al. Cancer Discovery 2017)。しかし、その分子メカニズムの詳細は十分には解明されていなかった。申請者らはこのがん微小環境における肝星細胞で著しく高発現しているサイトカインIL-33に注目し、この肝がん微小環境における標的細胞として、そのレセプターであるST2陽性の制御性T細胞(ST2+Treg)を同定した。フローサイトメトリーの結果から、ST2+Tregは肝がん微小環境では活性化型となっていた。さらに、IL-33―ST2+Treg経路が肝がんの進展に関わる可能性を検証するため、Treg特異的ST2ノックアウトマウスを用いて、高脂肪食による肥満関連肝がんを誘発した。その結果、Treg特異的ST2ノックアウトマウスでは、肝腫瘍形成が有意に抑制された。 次に、IL-33の活性化機構を検証した。本モデルでは肝星細胞で細胞老化にともなうSASP現象が生じているため、多くのサイトカインやプロテアーゼなどのいわゆるSASP因子が高発現していることを確認しており、IL-33もSASP因子のひとつとして高発現していると考えられた。IL-33と同時に高発現するプロテアーゼとして、あるエラスターゼが検出された。そこで、そのエラスターゼがIL-33のプロセシングに関与するかどうか、リコンビナント蛋白を用いて検討したところ、このエラスターゼがIL-33を活性化型のショートフォームにプロセシングすることがわかった。
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