研究課題
細胞老化は生体にとって重要ながん抑制機構であることが知られているが、近年加齢に伴い体内に蓄積した老化細胞が悪性腫瘍へと形質転換する危険性が注目されている。そのメカニズムの一つとして、老化細胞が炎症や発がんを促進する様々な炎症性蛋白質を分泌するSASP(Senescence-associated secretory phenotype)と呼ばれる現象を起こしていることが指摘されている。私たちはこれまでに、SASPが起こる分子メカニズムの解析を行い、細胞老化を起こすようなDNA損傷シグナルが、クロマチンにエピジェネティックな変化をもたらすことで、SASP因子の遺伝子発現が誘導されることを報告してきた(Takahashi et al., Mol Cell, 2012)。さらに私たちは、良性腫瘍から悪性腫瘍へと老化細胞が形質転換するメカニズムの一つとして、細胞老化でおこるダイナミックな染色体構造の変化と老化細胞が分泌するSASP因子に着目して解析を行った。その結果、老化細胞が分泌するSASP因子の中でも、特に細胞外分泌膜小胞の一つであるエクソソームの分泌が非常に亢進しており、さらにエクソソームの中にはゲノムDNA断片が含まれて細胞外へと分泌されていることを見出した。つまり、通常はクロマチン構造をとることで安定に保護されているはずの染色体が、老化細胞では断片化して細胞質へと出ていると考えられる。さらに、細胞質に存在するDNA断片は細胞に自然免疫応答を引き起こしDNAダメージを与えてしまうので、それを防ぐために正常な細胞は細胞質DNA断片をエクソソームに格納して細胞外へと分泌していることを明らかにした。そして、このような細胞の恒常性維持機構が破綻してしまうと、老化細胞が形質転換を起こし悪性腫瘍化してしまう可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
今年度は良性腫瘍から悪性腫瘍へと老化細胞が形質転換するメカニズムの一つとして、核内のゲノムDNAの断片化がおこりエクソソームに含まれて細胞外へと分泌される現象について解析を行い、論文としてその成果を発表した。
私たちは細胞老化ではクロマチン構造やエピジェネティックな修飾がダイナミックに変化することを見出しているので、今後はさらに老化細胞で高発現しているnon coding RNAの解析やクロマチン断片化の分子機構を解析することで、良性腫瘍から悪性腫瘍へと老化細胞が形質転換する分子メカニズムを明らかにしたい。
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Nature Communications
巻: 未定 ページ: 未定