研究実績の概要 |
私たちは細胞老化を起こすようなDNA損傷シグナルがクロマチンにエピジェネティックな変化をもたらし、SASP因子やnon-coding RNAの遺伝子発現が誘導されることを見出してきた。 平成28年度は、細胞老化のダイナミックな染色体構造変化により断片化したゲノムDNAを含むエクソソーム(細胞外分泌膜小胞)の分泌が亢進すること明らかにして報告しており(Takahashi et al., Nature Communications, 2017)、平成29年度はさらに細胞老化でおこる細胞の核構造の変化に着目して詳細な解析を行った結果、老化細胞では核膜の裏打ち蛋白であるLamin B1の発現レベルが低下することは知られていたが、MicronucleusやBudといった異常な核形態が観察される頻度が顕著に増加し、それによって細胞質にゲノムDNAが多く存在することを見出した。さらに細胞質に存在するゲノムDNAは、細胞質DNAセンサー(cGAS-STING)によって認識され自然免疫応答を引き起こし、これらの経路の活性化が老化細胞におけるSASPの誘導に重要な働きをすることが確認された。そこでSASPによって肝がんが発症することが確立しているモデルである高脂肪食負荷実験を野生型マウスとSTINGノックアウトマウスに対して行った結果、STINGノックアウトマウスの肝臓では脂肪肝になる頻度は変わらないもののSASPの誘導とがんの発症率が顕著に低下していることを見出した。 さらに、老化細胞特異的なnon-coding RNAが正常細胞の染色体数を変化させ、腫瘍細胞へと形質転換させることを見出し、良性腫瘍から悪性腫瘍へと老化細胞が形質転換するメカニズムの一つとしてダイナミックな染色体構造の変化が関与している可能性が示唆された。
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