研究課題
申請者らは、世界に先駆けて、単なる解糖系の終末代謝産物であると考えられていたがんから放出される乳酸が、がん周囲の異常な免疫環境を形成するのに関与する事を発見した。本研究では、骨髄系細胞やマクロファージに対する乳酸による4つのシグナル経路を解明する事を目的として研究をスタートした。すなわち、乳酸イオンによる (1) IL23 産生依存的及び (2)非依存的IL17産生誘導による炎症誘導経路と、乳酸とともに放出されるプロトンによる (3)免疫抑制と (4) Histone H3 のアセチル化誘導の2つのプロトンシグナル経路の分子機構を解明する。まず、前述した目的を達成する為に、乳酸によるIL17産生及びT細胞増殖抑制に関わる機能を抑制する抗体作成を試みた。オブアルブミン (OVA) 特異的T細胞受容体を発現したOT-IIマウスの脾臓細胞を乳酸処理した細胞又は骨髄由来マクロファージを乳酸処理した細胞をウサギに免疫し、ウサギミエローマ細胞株と融合しハイブリドーマを作成した。今後、これらのハイブリドーマのスクリーニングを精力的に行うと共に、免疫動物としてハムスター等も利用して、ハイブリドーマ作成及びスクリーニングを行う。また、岐阜大学耳鼻咽喉科のグループと共同で、頭頚部癌において腫瘍中の乳酸濃度とM2様マクロファージの集積について解析した。乳酸濃度の高い腫瘍乳酸濃度の高い腫瘍ほどM2様マクロファージマーカーであるCD163やMCSF受容体を持つ細胞が集積している事を示し報告した(Cancer science, in press)。乳酸によるHistone H3のアセチル化誘導に関しても研究を進め、免疫抑制に関わるHIF1αを介したARG1発現誘導経路とは異なり、HIF1α非依存的なシグナル経路の一部を明らかにしたので、平成29年度中に論文に報告したい。
2: おおむね順調に進展している
平成28年度は、乳酸処理をした脾臓細胞または骨髄細胞由来マクロファージを免疫源として、乳酸シグナルのうち、乳酸によるIL-17産生増強あるいはT細胞の増殖抑制を誘導する因子に対するモノクローナル抗体のハイブリドーマの作成を行った。現在、抗体スクリーニング中で有望な抗体がスクリーニングできるよう精力的に研究を進行している。現在までに、まだ有望な抗体は同定できていないが、既にスクリーニング系を確立しており、それを用いて、抗体のスクリーニングを進めていきたい。抗体作成に使用しているウサギミエローマ細胞株が、マウスミエローマ細胞と比較して融合効率が劣るため、ウサギミエローマ細胞の改善および免疫動物をハムスターに変更する等して、よりよい抗体をスクリーニングしたい。また、岐阜大学のグループと共同で、頭頸部癌において乳酸濃度と免疫細胞との関連の研究も進め、論文を発表している。さらに、今年度は、乳酸によるHistone H3のアセチル化誘導の研究も押し進めた。Histone H3のアセチル化誘導は、乳酸イオンではなく、乳酸と共にがん細胞から放出されるプロトンによって起こる事を明らかにしてきているが、本研究では、同様にプロトンによって誘導されるARG1の発現とは異なり、HIF1αの関与しない独立の経路である事を明らかにしている。今後、論文として報告できるよう研究をさらに進めたい。
乳酸シグナルのうち、乳酸によるIL-17産生増強あるいはT細胞の増殖抑制を誘導する因子に対する抗体のスクリーニングを、既に確立した系を利用して行っていく。また、より簡便な系を使ってその効率化を計りたい。特に、今回、購入したマイクロプレートリーダーとデジタルPCRシステムを利用して効率化を計りたい。また、ウサギミエローマ細胞の改善(より増殖力の高い細胞や融合効率の高い細胞への改変)および免疫動物をハムスターに変更する事により、ハイブリドーマ作成の効率を上昇させ、多くの抗体をスクリーニングしたい。頭頚部癌は、乳酸濃度の高い腫瘍である事が他のグループや岐阜大学の共同研究者らが報告しており、予後との相関が指摘されている。それ故、乳酸と頭頚部癌における免疫細胞との関連をさらに岐阜大学と共同で明らかにしていきたい。乳酸によるHistone H3のアセチル化誘導のシグナル経路の一部を明らかにしたが、アセチル化に直接働く分子は、明らかにできていない。すでに、HDACやヒストンアセチル化酵素などのアセチル化と関連する様々な分子が同定されている。それ故、それらの候補分子をスクリーニングする事により、乳酸によるHistone H3のアセチル化誘導の分子機構を明らかにしたい。また、このアセチル化経路が、免疫抑制マクロファージ誘導メカニズムと関連するかどうかも明らかにしたい。
大阪府立成人病センター研究所から大阪国際がんセンター研究所に名称変更
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