研究課題/領域番号 |
16H04708
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
垣見 和宏 東京大学, 医学部附属病院, 特任教授 (80273358)
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研究分担者 |
松下 博和 東京大学, 医学部附属病院, 特任講師 (80597782)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 腫瘍免疫 / ネオアンチゲン / エピゲノム / エピトープ |
研究実績の概要 |
ネオアンチゲン予測法は、全エクソンシーケンスによる網羅的遺伝子解析で得られた腫瘍特異的遺伝子変異からアミノ酸変異を伴う配列を抽出し、MHC結合能を計算する手法が主であった。平成28年度の研究において、我々は、RNA-Seqを併用することによりRNAレベルでも遺伝子変異を確認し、さらに腫瘍内で発現を伴う遺伝子変異産物を選択することで、より正確なネオアンチゲンの予測が可能になることを明らかにした(Cancer Sci. 2017 Feb;108(2):170-177)。 胃がん細胞のうち、C57BL/6マウスに接種すると自然に拒絶されるYTN2と拒絶されないYTN16について、YTN2には3296個、YTN16には3315個のミスセンス変異が検出された。2976個は両者に共通だった。腫瘍細胞で発現のあるものを選択した後、変異を含む8-10merのアミノ酸配列について、NetMHCpanによる結合能でIC50<100となるエピトープはYTN2で74個、YTN16で60個(52個が共通)、IC50<200ではYTN2で207個、YTN16で178個(155個が共通)だった。ネオエプトープをコードするミニジーンを7個つなげたタンデムミニジーンを発現させた抗原提示細胞とCTL クローンを共培養して抗原特異性を検討したところ、Zfp106の変異エピトープを認識していた。IC50<200の152個のペプチドを合成しペプチドライブラリーを用いてYTN2を拒絶したマウスの脾細胞を刺激してCdt1変異特異的CTLとCers4変異特異的CTLを同定した。同定された3つのペプチドをネオアンチゲンワクチンとして投与したマウスにYTN16を接種した。Cdt1ワクチン投与群では5匹中3匹、Cers4ワクチン投与群では5匹中1匹、すべてのワクチンを混合して投与した群では5匹中4匹で腫瘍が拒絶された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、エピジェネティック治療(DNMT阻害剤やHDAC阻害剤)によるネオアンチゲン発現の変化を、RNA-Seqで定量的に解析する。(2)発現増強が得られたネオアンチゲンに対する免疫応答の誘導を動物モデルとヒト臨床検体を用いて解析する。(3)エピジェネティック治療により誘導されるその他の遺伝子発現と免疫反応の関係を解析し、併用治療を計画するための基礎的情報を得る。(4)エピジェネティック治療と免疫チェックポイント阻害剤や免疫抑制解除治療との併用効果を動物モデルで検証し、その分子メカニズムを明らかにすることで、併用治療のProof of Conceptの確立を目指すことである。平成28年度は、1)~4)の課題を解決するための基礎となる条件検討を完了することができた。とりわけ、Exomeシーケンスで検出した腫瘍特異的体細胞遺伝子変異の発現をRNA-Seqで確認するとともに、Integrative Genomics Viewer(IGV)を用いて、RNA配列上に変異が存在することを確認することで、より正確にネオアンチゲンを同定する事が可能になった。またその結果、実際にマウス胃がんモデルでネオアンチゲンを同定し、エピトープペプチド(ネオエピトープ)を合成し、免疫応答を確認することができた。当初の目的を達成するために、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、エピジェネティック治療(DNMT阻害剤やHDAC阻害剤)非存在下での、胃がんモデルマウスにおけるネオアンチゲンの同定、200種類以上のペプチドからなるネオエピトープパネルの作成、ネオエピトープに対する免疫応答の検出を完了した。平成29年度以降は、胃がん細胞に対して、DNMT阻害剤である5-azacytidine(5-Aza-CR:VidazaTM),5-aza-2'-deoxycytidine(5-Aza-CdR:DacogenTM),HDAC阻害剤Trichostatin A(TSA),Vorinostat(ZolinzaTM),romidepsin (IstodaxTM),Valproate (VPA:DepakenTM)などの存在下で7日間培養し、継時的に遺伝子発現の変化をRNA-Seqで解析する。FASTQファイルからTophat-Cufflinkの発現解析パイプラインを用いて配列データのマッピングを行い、発現量をFPKM (Fragments Per Kilobase of transcript per Million fragments sequenced)値で出力する。ネオアンチゲンの発現に加えて、CT抗原の発現、MHCクラスI分子を含む抗原提示に関わる分子、接着因子、IFN感受性遺伝子、細胞内のDNA/RNAセンサー、サイトカインとその受容体の発現などにも着目し、免疫制御との併用のための基礎的な情報を獲得する。
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