研究課題
マウス肺がん細胞株LLC、悪性黒色腫B16、胃がん細胞株YTN2、YTN16の4種類の細胞株からDNAを抽出し、全エクソームシーケンスを実施して腫瘍特異的遺伝子変異を同定した。また、これらの細胞株をDNMT阻害剤の5-Azacytidine(5μM)、Decitabine(0.3μM)、HDAC阻害剤のVorinostat(2 μM)、Trichostatin A(50 nM)、Panobinostat(100 nM)、Valpraic acid(5 mM)存在下で7日間培養した後、RNAを抽出し、次世代シーケンサーを用いて全RNA-Seqを実施した。これらの細胞株には、アミノ酸置換を伴うミスセンス変異が、それぞれ1771個、1253個、1207個、1333個認めた。netMHCpanを用いて、ミスセンス変異の中からマウスC57BL/6マウスのH-2b分子に結合するネオアンチゲンを予測したところ、それぞれ、479、341、344、381個のネオアンチゲンが同定された。DNMT阻害剤及びHDAC阻害剤により、これらのネオアンチゲンの発現の変化を検討した。LLCでは、5-Azacytidine、Decitabine、Vorinostat、Trichostatin A、Panobinostat、Valpraic acidによって、遺伝子発現が10倍以上増加したネオアンチゲン数は、それぞれ4、5、16、23、24、19個認めた。B16では、6、11、11、16、17、16個、YTN2では、13、12、3、22、0、7個、YTN16では22、17、12、39、2、17このネオアンチゲンの発現が増強した。LLCとB16においてはHDAC阻害剤がネオアンチゲンの発現増強に有効であり、胃がん細胞株ではVorinostatとPanobinostatの効果が弱かった。
2: おおむね順調に進展している
がん免疫治療においては、免疫チェックポイント阻害剤との併用治療の開発が求められている。抗腫瘍免疫応答が認識する抗原が、腫瘍特異的遺伝子変異によって生じた変異アミノ酸を含んだネオアンチゲンであることが明らかになり、ネオアンチゲンを標的とした免疫治療の開発が期待されている。全エクソームシーケンスで得られた腫瘍特異的な遺伝子変異の情報を活用し、その中から、MHCクラスI分子に結合するペプチドをin silicoで予測することで、ネオアンチゲンの同定を試みているが、さらに、実際に細胞傷害性T細胞に認識されるためには、ネオアンチゲンが腫瘍細胞で発現している必要がある。RNA-Seqを行い、腫瘍内の遺伝子発現を効率よくスクリーニングすることが可能になっているが、発現が弱い変異遺伝子産物に対して、DNMT阻害剤やHDAC阻害剤を用いてエピジェネティックな変化によってこれらのネオアンチゲンの発現を増強することができれば、抗腫瘍免疫応答を増強することが可能になると期待される。平成28年度と29年度で担癌マウスモデルで免疫応答の解析が可能な4つのでがん細胞株(LLC、B16、YTN2、YTN16)を次世代シーケンサーで解析し、遺伝子変異、ネオアンチゲンを同定することができた。さらに、2種類のDNMT阻害剤5-Azacytidine、Decitabineと4種類のHDAC阻害剤Vorinostat、Trichostatin A、Panobinostat、Valpraic acidによって、これらの細胞株の遺伝子発現を修飾することで、ネオアンチゲンの発現を変化させることに成功した。平成30年度は、これらの変化が免疫応答に与える効果を検証することが可能になったことから、研究はおおむね順調に進行している。
まず個体レベルでの検証を行う。LLC、B16、YTN2、YTN16の細胞を、DNMT阻害剤5-Azacytidine、DecitabineとHDAC阻害剤Vorinostat、Trichostatin A、Panobinostat、Valpraic acidで処理して7日間培養し、ネオアンチゲンの発現を増強させた後、C57BL/6マウスに接種して、腫瘍の増殖を解析する。ネオアンチゲンの発現増強が、抗腫瘍免疫応答の増強につながれば、腫瘍の増殖抑制が期待される。より分子レベルでの解析を進めるために、DNMT阻害剤やHDAC阻害剤によって発現が増強したネオアンチゲンから、MHCクラスIに結合するネオエピトープペプチドを合成する。C57BL/6マウスの骨髄細胞からGM-CSFで誘導した樹状細胞にネオエピトープペプチドを結合させてマウスを免疫して、これらのネオアンチゲン反応性CD8陽性T細胞を検出する。ネオアンチゲン特異的T細胞の誘導に成功すれば、ペプチドに対する反応性をペプチドタイトレーション法で、親和性を解析し、さらに細胞株を樹立してネオアンチゲン特異的T細胞が、親株であるLLC、B16、YTN2、YTN16の細胞を認識を可能かどうか検証する。さらに、これらの細胞をDNMT阻害剤5-Azacytidine、DecitabineとHDAC阻害剤Vorinostat、Trichostatin A、Panobinostat、Valpraic acidで処理することにより、ネオアンチゲン特異的T細胞の反応性の変化を解析する。
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