研究課題/領域番号 |
16H04712
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
金田 安史 大阪大学, 医学系研究科, 教授 (10177537)
|
研究分担者 |
種村 篤 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (50457016)
|
研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | 癌 / 免疫学 |
研究実績の概要 |
HVJ-Eによるヒト癌細胞の細胞死誘導に関与する因子を網羅的に調べるため, ヒト去勢抵抗性前立腺癌細胞株PC3に対し、CRISPR/Cas9系を用いて網羅的に遺伝子をノックアウトしHVJ-E抵抗性になる分子を同定した。パスウェイ解析の結果、beta-cateninの活性化やT cell factorを抑制する複数の候補分子(APC2, DKK1, NLK, SOX17, Duplin)を同定した。HVJ-Eによるbeta-cateninの制御が癌細胞死誘導に関わっている可能性がある。その制御ができない場合、beta-cateninの活性化が恒常的に起こり、HVJ-Eによる直接的な細胞死誘導は阻害されるのかもしれない。HVJ-Eの細胞内シグナルは、そのRNA断片を認識するRNA受容体のRIG-Iにより伝達される。我々の実験結果より、HVJ-Eによる癌細胞死にはRIG-Iが関与すること、RIG-Iで活性化される転写因子のIRF3やIRF7が癌細胞死誘導に関与することが明らかになっている。一方、RIG-I経路で活性化されるIRF3の転写活性化にbeta-cateninのリン酸化が関与することが報告されており、恒常的活性化型のbeta-cateninでは、IRF3の転写活性化が起こらないのかもしれない。またPC3細胞にHVJ-Eを作用させたときの発現遺伝子の網羅的な解析のためにRNA seq.を行った結果、転写因子であるBATF2遺伝子の発現が特異的に増強されることが明らかになった。BATF2は癌抑制遺伝子と考えられているがその詳細なメカニズムは不明である。CRISPR/Cas9を用いてBATF2のノックアウト細胞を分離したところ、HVJ-Eによる細胞死誘導が阻害された。すでに我々が同定した癌細胞死誘導に関与する転写因子IRF7との関連を解析中である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画した内容に沿って実験を行い、HVJ-Eの感受性に係る候補遺伝子を同定することができた。これらの分子が感受性に係るメカニズムの解明が今後必要である。さらに患者検体での検証も行う予定である。また免疫チェックポイント阻害抗体療法とHVJ-Eの併用効果を各種癌モデルで検証し、その効果に影響を与える因子について検証する。
|
今後の研究の推進方策 |
・マウスメラノーマ細胞B16F10,或いはB16BL6を皮内移植したマウスの腫瘍内にHVJ-Eを2日おきに6回投与し、同時に腹腔内に抗PD-1或いはPD-L1抗体をDay 1, 14と2回投与する。これを1サイクルとし、マウスの状態を観察しながら2サイクルまで行う。これはそれぞれの臨床応用の際の回数に準じたものである。これら治療群のマウスにおける腫瘍組織内への各種免疫細胞(特にCD8+T cell, NK cell)の浸潤、PD-1, PD-L1の発現をqPCR法や免疫組織化学法で評価する。さらに脾臓におけるT細胞のメラノーマに対するCTL活性を判定する。 ・併用療法によって治療された担癌マウスの腫瘍組織の遺伝子発現解析を次世代シーケンサーを用いたRNA seqによって実施する。それらの遺伝子の中で、併用療法により相乗的に変動する遺伝子に注目する。 ・上述の絞り込んだ遺伝子のsiRNAを作成し、マウスメラノーマ細胞B16F10,或いはB16BL6を移植したマウスの腫瘍内に電気穿孔法で導入し、HVJ-E+抗PD-1或いはPD-L1抗体を投与し、治療効果の変化について検証する。この結果を基に、有効な遺伝子を絞り込む。 研究分担者の種村が行っている医師主導治験やすでに終了した臨床研究においてHVJ-E投与された患者の腫瘍組織サンプルについてPD-1, PD-L1の発現およびその下流にあるシグナル伝達分子の活性化を免疫組織化学的手法およびフロサイトメトリーを免疫組織化学的手法で解析する。この他の免疫チェックポイントとなる分子についても可能な限り検討する。
|