研究課題
ヒト前立腺癌細胞PC3にHVJ-Eを処理し、網羅的な遺伝子発現解析をRNA seq.を用いて行ったところ、IRF7が誘導されたが、正常前立腺上皮細胞株PNT2では誘導されなかった。そこでマウスメラノーマ細胞F10で検証すると、培養細胞レベルではIRF7はHVJ-Eで誘導されなかったが、C57BL/6マウスに腫瘍を形成させてHVJ-Eを投与すると誘導された。IRF7欠損のF10を作成し、マウスに腫瘍を形成させるとHVJ-E抵抗性になった。F10を免疫不全マウスに移植して腫瘍形成させ、HVJ-Eを投与するとHVJ-Eの抗腫瘍効果が低下した。HVJ-Eのメラノーマに対する抗腫瘍効果には、T 細胞とNK細胞の抗腫瘍免疫が関与していることが示唆された。HVJ-Eを投与された治験患者の腫瘍組織を用いて、RNA seq.を行った。治験1例目で低用量HVJ-Eを投与した患者の腫瘍組織である。HVJ-E非投与の腫瘍組織、HVJ-E投与後1ヶ月の残存腫瘍、HVJ-E投与から半年後にHVJ-E非投与部位に新たに出現した腫瘍組織を用いた。HVJ-E投与後1ヶ月の腫瘍組織でPD1, LAG3, CTLA4などT細胞の抑制マーカーの発現が上昇し、T細胞活性化後の疲弊状態を表していることが示唆された。そのほかの免疫系のマーカー遺伝子の変動はなかった。以上のことは、HVJ-Eと抗PD-1抗体の併用が抗腫瘍効果を増強できることを示唆している。マウスメラノーマF10の腫瘍モデルでは、HVJ-Eは皮内投与でも腫瘍内投与と同等の腫瘍抑制効果を発揮することが分かった。そこでマウスメラノーマモデルでHVJ-Eの皮内投与と抗PD-1抗体の腹腔内投与を行った。抗PD-1抗体単独では腫瘍抑制効果は認められなかった。HVJ-Eと抗PD-1抗体の併用群でもっとも腫瘍抑制が強かったが、HVJ-E単独群と有意差は認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
計画した内容に沿って実験を行い、HVJ-Eの感受性に係る候補遺伝子を同定することができた。また患者サンプルの遺伝子発現解析にも着手できた。
RIG-IおよびMAVS経路によって誘導される抗腫瘍免疫の活性化に関わる、或いはそれに影響を与える遺伝子群の探索、同定を行う。抗PD-1, 抗PD-L1抗体とHVJ-Eを併用して治療した腫瘍モデルにおいて、腫瘍組織における遺伝子発現解析を行って、併用療法により相乗的に発現が変動する遺伝子を解析する。前年度の結果とも照合し、それらの遺伝子がRIG-IおよびMAVS経路に作用するかどうかを検証する。その結果を基に併用療法に代わる治療分子を決定し、HVJ-Eに封入して治療効果を検証する。実際には、治療群のマウスにおける腫瘍組織内への各種免疫細胞(特にCD8陽性T cell, NK cell)の浸潤、PD-1, PD-L1の発現をqPCR法や免疫組織化学法で評価する。さらに脾臓におけるT細胞のメラノーマに対するCTL活性やNK細胞活性をクロム放出試験により判定する。以上により治療効果、T細胞の腫瘍内浸潤、CTL活性, NK細胞活性の間の相関について検討する。併用療法によって治療された担癌マウスの腫瘍組織の遺伝子発現解析をRNA seqによって実施する。それらの遺伝子の中で、併用療法により相乗的に変動する遺伝子やRIG-IやMAVS経路を制御する遺伝子のカテゴリーに合致するものを選択する。研究分担者の種村が行っている医師主導治験やすでに終了した臨床研究においてHVJ-E投与された患者の腫瘍組織サンプルについてPD-1, PD-L1の発現およびその下流にあるシグナル伝達分子の活性化を免疫組織化学的手法およびフロサイトメトリーを免疫組織化学的手法で解析する。この他の免疫チェックポイントとなる分子についても可能な限り検討する。分離した新たな遺伝子を封入したHVJ-Eをマウスメラノーマ腫瘍内に連続投与し、抗腫瘍効果をHVJ-Eと抗PD-1抗体などとの併用療法と比較する。
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