研究課題
CD26は多種類のヒトがんにおいて高発現している。これまでヒト化抗CD26モノクローナル抗体の開発を通じて、本抗体がCD26をがん細胞膜表面から核内に移行させ、核内CD26がRNAポリメラーゼIIサブユニット(POLR2A)の転写を抑制し細胞増殖を阻害すること、この核移行と増殖阻害ががん細胞特異的であることを報告した。さらに抗がん分子を本抗体に結合させ核内で抗がん効果を発揮させる方法を開発した。そこで本研究では、1)がん細胞におけるCD26と抗体の核輸送とPOLR2A転写抑制の分子機構の解明、2)がん組織検体におけるPOLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの開発、3)本抗体とPOLR2A阻害剤の結合による分子標的療法の開発、 を行っている。その結果、1)POLR2A転写調節領域でCD26/抗体と会合する分子をtwo-hybrid法にて同定し、これらの分子の正常細胞とがん細胞での発現・機能の解析を進めており、2)がん組織において17p13領域およびp53遺伝子とPOLR2A遺伝子の欠失を明らかにし、同一腫瘍でRNAポリメラーゼII構成分子群や基本転写因子群の発現解析を通してバイオマーカーの候補分子を見出し、3)RNAポリメラーゼII構成分子群や基本転写因子群の阻害分子をヒト化抗CD26抗体へ結合することに成功し、現在、in vitroでの抗がん活性を検討している。本ヒト化抗体は、通常の免疫機構を介した抗がん作用のみならず、増殖抑制や浸潤・運動阻害などの直接的な抗がん作用を有すことから、この抗体-薬剤複合体(Antibody-Drug Conjugate;ADC)においては、さらなる相加・相乗的な効果が期待される。
2: おおむね順調に進展している
1)がん細胞におけるCD26と抗体の核輸送とPOLR2A転写抑制の分子機構の解明:ヒト肝癌細胞株HCC-1, ヒト肺腺癌細胞株A549の核抽出成分・細胞質成分からCD26の免疫沈降を行い、CD26結合蛋白を単離し、質量分析およびアミノ酸配列決定した。現在、核移行シグナルを有するものを候補として、免疫沈降によりCD26との会合を検証している。またPOLR2A転写調節領域でCD26/抗体と会合する分子をtwo-hybrid法にて探索すべく、CD26/抗体の核輸送効率が高いヒト中皮腫細胞株JMNとCD26/抗体の核輸送が見られないヒト血管内皮細胞の2つのライブラリーを作成した。現在、核移行シグナルを有するもの、あるいはデータベース上、核内にその存在があるものを候補として免疫沈降法によりCD26との会合を検証している。2)がん組織検体におけるPOLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの開発:p53・POLR2A遺伝子ともに野生型および両遺伝子ヘテロ欠失型の大腸癌細胞株を用いて、17p13領域、p53およびPOLR2A遺伝子の欠失構造を解析し、RNAポリメラーゼII構成分子群(RBP1(POLR2A), RBP2 - 12)および基本転写因子群(TFIIA, B, D, F, H)に対する抗体を用いた免疫染色およびFISH法を行った。その結果、RBPの一部とTFIIHが候補として上がってきた。3)本抗体とRNAポリメラーゼII阻害剤の結合による分子標的療法の開発:RNAポリメラーゼII構成分子群および基本転写因子群に対する各種阻害分子(α-amanitinおよびtriptolide)を独自のリンカーを用いてヒト化抗CD26抗体へ結合させ、アフィニティカラムにてIgG1として精製した。精製した結合分子について、試験管内での抗がん活性を測定している。
1)がん細胞におけるCD26と抗体の核輸送とPOLR2A転写抑制の分子機構の解明免疫沈降により得られたCD26結合蛋白で核移行シグナルを有する候補分子について、YFP融合蛋白としCD26-CFP蛋白とともにFRET法により細胞内局在・輸送経路を観察し、核内でFRET陽性となる分子について、がん細胞における発現解析を行う。上記の蛍光分子の1分子観察法にて核輸送経路を詳細にする。CD26/抗体複合体とがん細胞核内で会合する候補分子から、POLR2A転写調節に関わる分子を同定し、CD26および候補分子の変異体を用いて、構造機能解析を行い、ヒトがん組織での発現や局在を検討し、臨床病理学的パラメーターとの関連を探る。2)がん組織検体におけるPOLR2A遺伝子欠失と相関するバイオマーカーの開発RNAポリメラーゼII構成分子群および基本転写因子群の免疫染色を継続し、がん組織においてPOLR2A遺伝子欠失を免疫染色にてスクリーニングしうるバイマーカーを探索する。がん組織において、17p13領域、p53およびPOLR2A遺伝子についてFISH法の検討を行い、ヘテロ欠失を鋭敏に検出できる方法を確立する。3)本抗体とRNAポリメラーゼII阻害剤の結合による分子標的療法の開発さらに基本転写因子群に対する各種阻害分子(minnelide, THZ1)をヒト化抗CD26抗体へ結合させ、抗体価が維持され、かつRNAポリメラーゼII阻害効果があり、毒性が低いADCを開発する。得られた結合分子は、アフィニティカラムにてIgG1とし精製し、血中のエステラーゼ等での分解や、その安定性を試験管内およびマウス体内で検討する。また細胞内での抗体と薬剤の分離能について細胞分画法により検証し、 様々な分離を示すADCを目指す。
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British Journal of Cancer
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
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Journal of Dermatological Science
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Cancer Cell International
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