研究課題
抗がん候補物質の薬理効果とがん細胞の遺伝子変異の間に成立する合成致死を利用した、新たながん分子標的治療モデルを構築することを目的として、以下の検討を行った。ポリ(ADP-リボシル)化酵素であるタンキラーゼの阻害剤をHeLa細胞に処理し、薬力学的マーカーが明瞭に変動し、かつ細胞増殖には大きな影響を与えない薬剤濃度を決定した。shRNAライブラリーのレンチウイルスベクターを作製し、クローン化したHeLa細胞にこれを感染させ、上記検討で決定した濃度のタンキラーゼ阻害剤を処理し、1週間培養後の細胞からゲノムDNAを抽出した。shRNAベクターに含まれるバーコード配列の増幅産物について、次世代シークエンシング解析データを取得した。一方、タンキラーゼ阻害剤はがん抑制遺伝子APCの機能を欠損したある種の大腸がん細胞の増殖を抑制するが、APC変異そのものはタンキラーゼ阻害剤感受性の必要十分条件ではない。そこで、様々な大腸がん細胞を用いてAPC変異パターンと同剤感受性の関連性について精査した。その結果、タンキラーゼ阻害剤が有効ながん細胞ではAPC分子内の20-アミノ酸リピート(20-AAR)と呼ばれる繰り返し構造が全て欠損する変異が生じていることが判明した。このような変異パターンを示す大腸がん細胞では下流のβ-カテニン増殖シグナルが顕著に活性化し、同シグナルに対する強い依存性が生じていることが分かった。一連の分子生物学的検証実験を行った結果、タンキラーゼ阻害剤はこのシグナルを遮断することで制がん効果を発揮することが分かった。所内倫理審査承認のもと、同意を得た患者由来の大腸がん細胞で検証したところ、20-AARを完全欠失した細胞はタンキラーゼ阻害剤に感受性を示すことが確認された。
2: おおむね順調に進展している
タンキラーゼ阻害剤の合成致死因子探索が順調に進んだのに加え、同剤の効果予測バイオマーカー候補として、大腸がんで最も代表的ながん抑制遺伝子であるAPCの変異パターンを同定することが出来た。本研究課題では、タンキラーゼ阻害剤の他にもグアニン4重鎖(G-quadruplex: G4)と呼ばれる特殊な核酸高次構造を安定化する化合物(G4リガンドと呼ぶ)の合成致死因子もしくは効果予測バイオマーカーの同定を目指している。今年度は、複数のG4リガンドの特異性に関するプロファイリング(感受性がん細胞・耐性がん細胞の分類、薬力学マーカーのモニタリング)を実施することで、探索に用いる化合物の選定を進めた。
次世代シークエンシングの結果、薬剤存在下で選択的に頻度低下を示すクローンが多数同定されることが予想されるので、ヒット遺伝子が構成する分子シグナル経路を分析するとともに、標的となる個々の遺伝子が実際のがんでどの程度変異もしくは発現低下を起こしているか、がん抑制遺伝子としての記述はないか確認する。さらに、当該遺伝子とタンキラーゼの間にどのようなメカニズムを介して合成致死が成立するのか考察する。重要な選択基準として、複数のヒットshRNAクローンの標的遺伝子が互いに同じシグナル経路もしくは同じ機能タンパク質複合体を構成し、それぞれの遺伝子変異が一定の頻度でかつ相互排他的に生じている場合は、詳細な機能が未知であったとしても、がんのドライバー変異を捉えることが出来ている可能性が高いと予想される。そのような遺伝子ヒットがあった場合、以降はそれらを優先的に解析することとする。絞られた遺伝子のsiRNAもしくはshRNAを様々ながん細胞株に導入し、標的遺伝子を枯渇させる。同細胞に対してタンキラーゼ阻害剤を処理し、高感受性化が認められるか確認する。これらの検討により合成致死が確認されたものに関しては、それぞれの機能から作業仮説を立て、分子メカニズムについて検討する。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (3件) (うち招待講演 3件) 備考 (1件)
Mol Cancer Ther
巻: 16 ページ: 752-762
10.1158/1535-7163.MCT-16-0578
http://www.jfcr.or.jp/chemotherapy/department/molecular_biotherapy/index.html