研究課題/領域番号 |
16H04717
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研究機関 | 公益財団法人がん研究会 |
研究代表者 |
冨田 章弘 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター ゲノム研究部, 部長 (40251483)
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研究期間 (年度) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 癌 / 分子標的治療 / 微小環境 / 代謝ストレス / UPR / ISR / キナーゼ阻害剤 |
研究実績の概要 |
代謝ストレス応答は、がんに特徴的な種々の条件下で機能し、がん細胞の生存や増殖に重要な役割を果たしている。本研究では、ISR (Integrated Stress Response)を中心に、がん化シグナル阻害やグルコース欠乏等に対する活性化機構の多様性の分子基盤を明らかにし、がん特異的な治療法開発に向けての研究展開を図る。今年度は、がん化シグナル阻害やグルコース欠乏等に対するISR活性化機構の多様性を分子レベルで検討するための基盤を築くため、1)分子標的薬剤による代謝ストレス応答の誘導とその機序解析、2)がん細胞の栄養飢餓応答における多様性の分子機序解析、の2つの研究項目を中心に行った。研究項目1)では、BRAF阻害剤ベムラフェニブを用いた予備的検討結果を踏まえ、がん化シグナルを阻害するキナーゼ阻害剤を中心に、355のキナーゼ阻害剤について、ISRに伴って細胞核内に蓄積するATF4を迅速に検出するアッセイ系用いてISRの誘導活性や阻害活性を検索した。その結果、ベムラフェニブと同様にISR活性化を誘導するキナーゼ阻害剤、逆に、阻害するキナーゼ阻害剤を複数同定することに成功した。一方、研究項目2)では、ヒトがん細胞39株をグルコース欠乏やグルタミン欠乏に曝した際のトランスクリプトーム・データについて、一部未取得であった細胞株のデータを取得し、全39株のデータベースを完成させた。本データベースから、グルコース、グルタミンそれぞれを欠乏した際に誘導されるトランスクリプトーム応答は一定の多様性を示し、それぞれ3-4種のパターンが存在することが明らかになった。これらの多様性と、がん化シグナルとの関係についての研究に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、代謝ストレス応答の多様な活性化機構の分子メカニズムを解析し、その制御機構を明らかにすることを目的としており、さらに、これらの基盤情報を活用し、代謝ストレス応答を制御する、がん選択的な新しい治療法の考案を目指している。当該年度では、がん化シグナルを阻害するキナーゼ阻害剤の検索やグルコース欠乏等に対するトランスクリプトーム・データベースの構築を通じ、ISR活性化機構の多様性を分子レベルで検討するための基盤情報を得ることができた。次年度は、これらの分子機序解析を順次進めていき、治療法の考案に有用な情報を蓄積していく予定でいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間の計画で第1年次終了時点であり、研究はおおむね順調に進み、研究計画の変更あるいは研究を遂行する上での問題はないものと考えている。第2年次においては、当初の予定通り、平成28年度の成果に基づき、研究項目1) 分子標的薬剤による代謝ストレス応答の誘導とその機序解析、ならびに2) がん細胞の栄養飢餓応答における多様性の分子機序解析を継続する。加えて、ベムラフェニブ等のISRを活性化する薬剤と、逆に、阻害する薬剤の併用によって合成致死を誘導できる組合せの探索等の治療応用に向けた研究に着手する予定である。
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